本研究は、長野県木曽地方で1949年から取り組まれた島崎藤村木彫像制作事業の総合的検証作業によって近代造形の原理の究明を目指すものである。研究の基礎資料として、18K00118(基盤研究(C))「石井鶴三、島崎藤村先生木彫像の近代性に関する研究-木片の検証と制作工程の再現-」(2018‐2020)で開発された、「木彫島崎藤村像」の制作工程再現に関わる木片および作品の3Dデジタルデータを活用し、それをデジタルコンテンツに集大成することで造形の原理の解析を試みた。研究期間の前期2年は、各種3Dデータを系統的に分類整理するとともに、木片データを制作工程のオーダーに従って、コンピュータ上で一つのソリッドに統合(空間配置)していく作業および、空間配置された木片データーの集合体を手掛かりに、モデリングソフト上木彫の制作工程自体を復元する作業に費やされた。こうして系統的に構築されたデーター群は、一連の制作工程を自動で再現する3Dアニメーションシステムにまとめ上げられ視覚的な成果物となった。3Dアニメーションは3種製作され、藤村像の整作の最初から企図されていた制作過程の保存がここに確立されたと言える。しかしながら、それを超える成果として、アニメーションの作製に向けて構築したデータ群の解析から、石井鶴三の造形方法論の解明の意義には多大なものがある。ここに解明された方法論は、世界の彫刻技法(創造活動)史全体との比較検証により、近代芸術の原理特定に資することが予見されており、芸術原理に基づく世界の芸術史観の再構築が期待されるからである。
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