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2021 年度 実施状況報告書

引っ掻き、削り、塗り残し ─ 近代日本絵画における多層構造の活用に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 21K00125
研究機関山形大学

研究代表者

小林 俊介  山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (50292404)

研究分担者 大谷 省吾  独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 美術課, 主任研究員 (90270420)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード引っ掻き・削り / 塗り残し / 下絵・旧作の再利用 / 近代日本絵画 / 多層的構造
研究実績の概要

1)靉光(1907-1946)の《シシ》(東京国立近代美術館、1936年)について、作品の部分模写を行いながら分析し、後続する関連作品である《眼のある風景》(東京国立近代美術館、1936年)と比較しながらその技法的特徴、とくにその多層的構造について明かにし、その成果を学会およびNHK番組『日曜美術館』の「靉光(あいみつ)の眼」(初回放送日: 2021年7月4日)で公開した。両作品ともに随所にグレーズと考えられる透明な塗り,また半被復・半透明気味な重層が認められる。一方,明部には不透明な描法も目立つが,適宜下層が塗り残されたり,表層の絵具をこすったり削ったりして下層の塗りが適宜露出され,階調が形成されている。最も異なるのは描画の「計画性」である。《シシ》には縦 9.0 cm × 横14.0 cm ほどの碁盤目が規則的に全面に施されており,構図を探ったとも,あるいはこの碁盤目を頼りに下絵を拡大したとも推測される。試行錯誤を伴いながらも,《シシ》ではライオンというモチーフがあらかじめ定まっていたように思われる。一方,《眼のある風景》に は制作の初期段階では眼が描かれておらず,塊のような形も異なるものであった。眼というモチーフは制作の過程から「出現」したものと考えられる。その生成的な画面作りに靉光のシュルレアリスム的な側面が見いだされるし,一方《シシ》は《眼のある風景》に至る過渡的な特徴を持つ作品として位置づけられる。
2)研究分担者の大谷は東京国立近代美術館が新たに収集した野口彌太郎《巴里祭》(1932年)および京都国立近代美術館が新たに収集した靉光《静物》(1942年)の画面調査を行い、このうち野口彌太郎の作品について、東京国立近代美術館ニュース『現代の眼』に「新しいコレクション」として解説を執筆した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究対象となる作家の作品について基礎的な調査を行い、今後の研究のための情報を共有することが出来、またその一部の成果を発表することが出来た。小林俊介(研究代表者・山形大学)・大谷省吾(研究分担者・東京国立近代美術館)は、靉光作品《シシ》や《眼のある風景》を中心に調査を行い、その多層的な作画構造について解明するとともに、その成果の一部を学会口頭発表のほかNHK番組「日曜美術館」でひろく公開することができた。加えて、大谷は野口彌太郎について研究成果を発表し、また孝岡睦子(研究協力者・大原美術館)は伊原宇三郎による「引っ掻き」を使用したピカソ作品の模写について文献調査を中心に、次年度以降の調査のための準備的な調査を行っている。

今後の研究の推進方策

前年度に引き続き基礎的な調査を行うとともに、光学的調査を含めた作品調査を行い、対象作品の多層 的な構造の解明を目指す。とくに、当時の福島コレクション展観において影響力を持ったピカソ・ルオーの作品の影響を受 けたと考えられる松本竣介ら近代日本作家の作品について精査する。また、昨年度未調査であった伊原宇三郎作品の調査を進め、その「引っ掻き」技法の特徴について明かにしたい。また、当時留学し欧米の実地の見聞をもとに「引っ掻き」や削りの技法を用いた野田英夫、須田国太郎の「引っ掻き」や削りを用いた作品について実地調査を行い、その知見について学会等で発表を行うとともに、美術館での成果展示に向けての準備を行う。
なお、本研究課題の問題意識から考察する伊原宇三郎をはじめとする日本近代絵画における西洋近代絵画の受容について、今年度内に研究会「芸術と社会―近代における創造活動の諸相―」で口頭発表を行う予定であり、その後、同内容を活字においても発表の予定である。さらに、昭和初期、日本で画家たちが実見することができたであろう大原美術館が所蔵する旧福島繁太郎コレクションの西洋絵画、具体的にはパブロ・ピカソやジョルジュ・ルオーの絵画作品の科学調査を行い、その技法や絵画層の状態を分析し、その成果をシンポジウムにおいて発表予定である。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルスによる影響で作品調査のための出張が行えないものがあり、その結果、旅費の執行が予定額に満たなかった。また、その結果、一部に再現模写や科学調査の必要性の有無を含む今後の調査方針が立たなかった作品があり、物品費の使用残額が生じた。次年度は今年度予定していた調査旅費を執行するとともに、次年度予定の実地作品調査に係る図書や再現模写のための材料等の物品費,科学調査のための謝金等について併せて執行する計画である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 新しいコレクション 野口彌太郎《巴里祭》2022

    • 著者名/発表者名
      大谷省吾
    • 雑誌名

      現代の眼

      巻: 636号 ページ: 20-20

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 靉光《シシ》について2021

    • 著者名/発表者名
      小林俊介
    • 学会等名
      大学美術教育学会

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公開日: 2022-12-28  

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