研究実績の概要 |
1)靉光(1907-1946)の《シシ》(東京国立近代美術館、1936年)について、作品の部分模写を行いながら分析し、後続する関連作品である《眼のある風景》(東京国立近代美術館、1936年)と比較しながらその技法的特徴、とくにその多層的構造について明かにし、その成果を学会およびNHK番組『日曜美術館』の「靉光(あいみつ)の眼」(初回放送日: 2021年7月4日)で公開した。両作品ともに随所にグレーズと考えられる透明な塗り,また半被復・半透明気味な重層が認められる。一方,明部には不透明な描法も目立つが,適宜下層が塗り残されたり,表層の絵具をこすったり削ったりして下層の塗りが適宜露出され,階調が形成されている。最も異なるのは描画の「計画性」である。《シシ》には縦 9.0 cm × 横14.0 cm ほどの碁盤目が規則的に全面に施されており,構図を探ったとも,あるいはこの碁盤目を頼りに下絵を拡大したとも推測される。試行錯誤を伴いながらも,《シシ》ではライオンというモチーフがあらかじめ定まっていたように思われる。一方,《眼のある風景》に は制作の初期段階では眼が描かれておらず,塊のような形も異なるものであった。眼というモチーフは制作の過程から「出現」したものと考えられる。その生成的な画面作りに靉光のシュルレアリスム的な側面が見いだされるし,一方《シシ》は《眼のある風景》に至る過渡的な特徴を持つ作品として位置づけられる。 2)研究分担者の大谷は東京国立近代美術館が新たに収集した野口彌太郎《巴里祭》(1932年)および京都国立近代美術館が新たに収集した靉光《静物》(1942年)の画面調査を行い、このうち野口彌太郎の作品について、東京国立近代美術館ニュース『現代の眼』に「新しいコレクション」として解説を執筆した。
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