研究課題/領域番号 |
21K00125
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小林 俊介 山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (50292404)
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研究分担者 |
大谷 省吾 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, ─, 副館長 (90270420)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 引っ掻き・削り / 塗り残し / 下絵・旧作の再利用 / 近代日本絵画 / 多層的構造 |
研究実績の概要 |
今年度は1)伊原宇三郎・三岸好太郎作品および関連資料の調査、2)大原美術館における福島コレクション関連作品の光学調査及びその研究成果の一部発表3)須田国太郎作品及び関連の調査、4)松本竣介作品の調査及びその研究成果の発表、5)関根正二作品の調査及びその研究成果の発表、6)三岸好太郎作品の調査行った。 1)に関しては徳島県立近代美術館において、伊原宇三郎作品および旧蔵資料の調査を行った。また、世田谷美術館においては伊原の《横臥婦人》(1928年)、ならびに伊原の『滞欧手帳』の熟覧と写真撮影を行った。くわえて、伊原氏の遺族宅(東京都世田谷区)において、伊原によるピカソの模写1点の調査を行い、伊原氏旧蔵のピカソ関連資料をお預かりした。2)に関しては、大原美術館において、同館蔵の作品4点①ジョルジュ・ルオー《道化師(横顔)》(1925-1929年)、②パブロ・ピカソ《鳥籠》(1925年)、③ジョヴァンニ・セガンティーニ《アルプスの真昼》(1892年)、④松本俊介《都会》(1940年)について、赤外線・紫外線・斜光撮影を行った。3)に関しては、須田国太郎の作品、および須田国太郎の蔵書に関して調査を行った。4)に関しては、松本竣介《コップを持つ子ども》(個人蔵、1942年)を実見調査し、習作の素描や作者の残したメモなどを手がかりに絵具層の重ね方やその効果を論じた。5)に関しては、《子供》(石橋財団アーティゾン美術館、1919年)の再現模写を通じて、その作品がピカソに比すべき下層の創造的活用を効果的に行っていたことを明らかにした。6)に関しては、北海道立三岸好太郎美術館において、「引っ掻き」が見とめられる1933-34年の三岸作品10点及び1920年代後半の紙作品2点の熟覧と写真撮影を行った。またあわせて、宮城県美術館蔵において三岸の《オーケストラ》(1933年)の熟覧と写真撮影を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が対象とする近代日本洋画における多層的構造の活用、就中「引っ掻き」や多層的な塗り重ねを行った画家について順調に調査を進めている。 上記4)5)にあげた松本竣介作品および関根正二作品についてはその研究成果の一部をすでに発表している。また、上記1)の伊原宇三郎に関しては、2022年度に調査した作品、『滞欧手帳』および同氏旧蔵のピカソ関連資料を資料の整理を進め、マチエールにおける伊原の西洋美術に対する考えとそれの絵画制作への影響を分析を行っている。 また上記2)で言及した大原美術館における光学調査については、関係者内で調査結果についての分析と討議を重ね、さらなる光学調査を検討している。3)に関しては須田国太郎の一部の作品及び京都大学所蔵の須田国太郎蔵書調査を行い、その分析を進めている。6)の三岸好太郎作品に関しては、作品実見の結果と訪問先での研究者のヒアリング内容の整理を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、上記1)2)3)に記述した調査資料の分析を進めるとともに、必要な新規調査を進める予定である。1)に関しては、伊原のヨーロッパでの情報をもとに、ヨーロッパ現地での作品・資料調査の実施を検討している。2)で言及した大原美術館所蔵の福島コレクションの主要作品に関しては、令和4年度に実施できなかったXRF等の追加調査を行い、使用された顔料の分析なども加味しながら、総合的な調査分析を行い、同コレクションの作品における重層構造の利用が近代日本洋画において如何なる影響を及ぼしたかを総合的に検討する。また上記3)で言及した須田国太郎に関しては、東京国立近代美術館および京都国立近代美術館所蔵の主要作品および関連資料の調査を進めるとともに、その理論的著作との関連・照応を検討し、須田国太郎作品における重層構造の利用について総合的な検討を進める予定である。6)に関しては、三岸が「引っ掻き」を用いた作品を追加で実見調査するとともに、彼の「引っ掻き」の着想源を三岸周辺の文献資料の調査を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
東京国立近代美術館における調査を予定していたが、調整により調査が次年度となったことが主たる理由であり、次年度に順調に予算を消化する予定である。
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