研究課題/領域番号 |
21K00126
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
神部 智 茨城大学, 教育学部, 教授 (20334005)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シベリウス / 交響曲 / 音楽語法 / 表現手法 / 受容史 |
研究実績の概要 |
本研究では、フィンランドの作曲家ジャン・シベリウス(1865~1957)に着目し、彼の音楽がフィンランド、イギリス、ドイツ、アメリカ等でどのように受容されたのか、その受容の背景にはいかなる見方や価値判断(あるいは政治的な力学)が働いたのか、彼の表現手法や音楽語法のどのような側面がそうした見方、価値判断を導いたのかを明らかにするとともに、近現代音楽史におけるシベリウスの芸術的業績に関して、各国固有の文化史的側面を織り込みながら解明する。 本年度は、シベリウスの最も革新的な交響曲として知られる第4番(1911)に着目し、その音楽語法と表現手法を分析した。さらに同交響曲が各国においてどのように受容されたのかを調査し、シベリウスの音楽に対する様々な見方や評価を多角的に検証した。 シベリウスの音楽がそれぞれの文化に与えた影響やその要因の考察を通して、20世紀音楽をめぐる多様な価値観や歴史観を紐解き、ドイツやフランス、イタリア等の中央ヨーロッパを主軸とする従来の音楽史記述に新たな視点を加え、ひいては総合的な20世紀音楽史の構築に寄与することが本研究の意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究においては、シベリウスの音楽を様々な文化的文脈から捉え直し、その歴史的、美学的意義に光を投げ掛けることで、20世紀音楽史の一側面を従来とは別アングルから再考している。 本研究の遂行に際しては、以下の考え方を前提としている。まず、音楽作品のアイデンティティは、作品の成立以降における歴史的連続性の中で常に変化を続ける存在であり、不変のテクストの中に唯一、絶対的に存在するものではないこと。音楽作品は、そのようなせめぎ合いを重ねることによって、それぞれの「文化」の一部になっていく、ということである。したがって、音楽作品に対する評価は、個々の文化的文脈に基づいて多角的に評価することが重要である。 上記の前提に則り、本年度はシベリウスの交響曲第4番を主に取り上げ、作品分析と作品受容の考察を並行して行なった。その成果は、『OGT268シベリウス 交響曲第4番 イ短調 作品63』(ミニチュアスコア/音楽之友社)で発表した。しかし、本年度に予定されていた第7回シベリウス国際会議がコロナ感染症の影響で延期されたため、海外での研究発表と研究者との意見交換、文献調査ができなくなり、必要な一次資料の収集に支障をきたしている状況である。海外渡航が困難な場合の情報収集の在り方について、再考を迫られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、シベリウスの音楽の歴史的意義および芸術的評価について、フィンランド、イギリス、ドイツ、アメリカ等の文化的文脈を踏まえて考察し、各国での評価の相違を作曲家の表現手法と作品受容の相互関係に着目しつつ解明していく。具体的には各国の文化史的側面に着目しつつ、シベリウスの音楽(表現手法や音楽語法)が各国でどのように受容されてきたのかを、それぞれの代表的な研究者、評論家、音楽家らの記述(文献)を調査して論考する。 研究の題材に上記の4か国を選んだ理由は、シベリウスの音楽に対する捉え方がそれぞれ大きく異なり、それを記述した各国の関係資料が豊富に存在しているからである。20世紀全体を通して、フィンランドとイギリスではシベリウスの音楽が高く評価されたのに対し、ドイツでは厳しく批判されてきた。また、アメリカではシベリウスの音楽をめぐって激しい論争が繰り返され、その評価が大きな変化を経験している。 各国のそうした状況を踏まえ、それぞれの文化的文脈からシベリウスの音楽の芸術的意義を明らかにし、ひいては20世紀音楽に対する様々な見方や評価、歴史観を多角的に再考する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、フィンランドで開催が予定されていたシベリウス国際会議がコロナ感染症の影響で実施されなかったため、未使用額が生じた。次年度は、新たな研究関連資料の収集を国内で行いたい。なお、多くの文献の出版が次年度以降に行われるため、その出版に合わせて助成金を使用する。
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