最終年度となる令和5年度は、ダンスドラマトゥルク実践の言説化を行った。ここでは、ダンスドラマトゥルクとしてダンスドラマトゥルギーの言説化を試み、英国ラウトリッジ社から出版する単著「老いのダンスドラマトゥルギー」の執筆準備を進めた。この本では、これまでの申請者のダンスドラマトゥルクとしての経験を、当該研究で得たダンスドラマトゥルギーの系譜に位置づけ執筆する。申請者がドラマトゥルクとして関わった中国のバレエダンサーの老いを扱う作品や台湾/タイの振付家によるラーマーヤナと師弟制度に関する作品、ダンスアーカイブボックスのプロジェクトを事例として取り上げ、ダンスドラマトゥルクが作品にどう介入するのか執筆を進めた。昨年度延期していた欧州出張を実施し、ドイツとオーストリア、ベルギーに渡航し、ダンスドラマトゥルクに関する資料調査を行っただけでなく、ベルリン自由大学ガブリエレ・ブラントシュテッター教授やウィーンのダンスドラマトゥルクへの聞き取り調査を実施し、加えてブリュッセル自由大学での比較ドラマトゥルギーに関する国際共同研究ワークショップにも参加した。また初年度に実現できなかった米国ゲッティー・インスティテュートでのイヴォンヌ・レイナー・コレクション調査は、渡航費用が高騰したため中止した。その代わりに、カナダ・アルバータ大学でダンスドラマトゥルギーに関する講演を行い、昨年度から継続するカナダの劇場施設バンフセンター・フォー・アーツ・アンド・クリエイティビティのダンスプログラムでファカルティ・ドラマトゥルクとしての実務を通して、当該研究へのハンズオンの知識を保った。加えて、国内では表象文化論学会で研究としてのパフォーマンス「型の向こうへ」に関する学会発表を行い、また2024年3月には国内外のドラマトゥルクを招聘し日本初となるドラマトゥルク・ミーティングを三日間にわたって企画開催した。
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