研究課題/領域番号 |
21K00143
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
船岡 美穂子 東京藝術大学, 美術学部, 講師 (90597882)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 風景画 / 愛好家 / フランス / 18世紀 / ディレッタント / アカデミー / 庭園 / ヴェルネ |
研究実績の概要 |
近世以来、フランスはヨーロッパの中心たる大国となり、優れた美術作品が多数生み出され、それに伴い先進的な美術愛好家たちが活躍して受容層もいっそう豊かに拡大した。風景画は、とりわけ19世紀以降に発展して近代絵画の一大ジャンルを形成することになるが、18世紀には徐々に新しいテーマや表現が芽生え、やがて美術愛好家たちに熱心に注文・購入されて人気を誇るようになる。本研究は、従来等閑視されてきた美術愛好家を中心とした素人のたしなみとしての風景画制作が、自然に対する新たな感覚や趣味を育み、風景画家たちの作品制作ならびに風景画ジャンルの興隆・発展を促し、影響を与えたことを明らかにしようと試みるものである。 本年度は、前年度に引き続き、この時代の主要な風景画家の画業と評価とともに、美術愛好家の作品制作の調査考察を進めた。ジョゼフ・ヴェルネ、ユベール・ロベールら個別の画家の評伝の他、戸外制作にかんする一次史料、二次文献、作品画像の収集を継続した。ロジェ・ド・ピールによる美術理論書中の風景画論、ペルネティ、ラコンブ、ヴァトレらが編纂・執筆した美術事典の項目を中心として、風景画とそれに関連する用語の概念や定義、評価の変遷を検討した。また、先進的な風景画が発展し、素人による制作の実践も進んでいたイギリス絵画の動向も視野にいれつつ資料収集に努めた。前年度から行ってきたヴェルネの作品評価の分析をまとめ、マリエットによるこの画家の評伝の翻訳・解題を予定通り執筆して報告した。また、前年度に公刊した著作の一部をもとに、美術愛好家の作品制作を内容に含む講演を行った。 以上の調査研究を通じて、地誌的風景画がジャンルとして発展し、風景画ジャンルの中で重要な位置を占めるようになることが確認できた。今後は地誌的なテーマによる美術愛好家の制作に留意して調査を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度以来、資料の収集を継続するとともに、①主要な風景画家と作品制作を実践した美術愛好家のリストアップと基礎調査、また②風景画家と美術愛好家の交友や支援関係の調査が課題であったが、風景画の展開と、画家と美術愛好家の基礎調査の実施、また主要な画家の評伝の翻訳・解題の執筆公刊も実現できたため、おおむね計画通りに進んでいると言える。 今年度も、新型ウィルスの流行ならびにウクライナをめぐる世界情勢の変化、物価の高騰等により、海外調査が難しくなったため、資料収集はある程度限定されたものとならざるを得なかった。しかし、国内での図書館への入館制限が緩和されて資料閲覧が可能になったこと、ならびに海外の美術館や図書館によって、オンライン上での資料公開が進んだおかげで、文献資料ならびに作品画像収集をある程度補うことができた。加えて、本研究計画以前に、別のテーマのもとで収集・蓄積していた一次史料や二次文献、画像資料類をあらためて本研究テーマの観点から再整理したところ、今後役立つ可能性のある文献や画像資料を見出すこともできた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は状況を見極めながら、新型コロナウィルスの流行ならびにウクライナ情勢により実施できなかった海外調査の実現を目指す。本研究計画の最初の2年間に国内で行ってきた基礎的調査を生かして、本研究の部分的な遅れを取り戻すべく、未公刊の一次史料や美術愛好家の作品の実見調査を行う予定である。 具体的に述べるならば、これまでの調査を通じて、地誌的風景画の展開と、美術愛好家の風景画制作が重なる可能性があることが判明したことを踏まえ、彼らの風景画制作に、自国フランスへの愛着から地域が選択されていた可能性を探る。美術事典の風景画関連の重要な項目を執筆するとともに自らも制作を嗜んだヴァトレをはじめとした数名の美術愛好家の制作活動に着目し、海外での作品調査、一次史料の収集を行う。得られた成果は、引き続き口頭発表や論文執筆を通して報告することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、新型ウィルスの流行ならびにウクライナをめぐる世界情勢の変化により、海外調査が不可能であったことである。 従って次年度の使用計画は、これらの社会情勢ばかりでなく、これに連動した物価の急激な高騰の問題も考慮せざるを得なくなった。そこで、渡航回数を減らすことで当初の予算を調整し、今年度は調査の準備期間を延長するとともに、次年度以降に実施する海外渡航での滞在期間のほうを増やすことで調査の充実を図った。また、上述の「現在までの進捗状況」のとおり、引き続き国内外でオンラインによる公開が進んだ資料を今後も有効に活用してゆく予定である。その他の用途には、大きな変更はない。引き続き文献資料の購入、PCやプリンタ等の機器の購入による研究環境の整備、そして成果発表や論文投稿のための諸経費である。今後も、状況の変化に応じて基金制度を生かすといった柔軟な対応に努めたい。
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