研究課題/領域番号 |
21K00148
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
佐々木 守俊 清泉女子大学, 文学部, 教授 (00713885)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 仏像 / 奇瑞 / 仏教説話 / 像内納入品 / 仏教版画 / 印仏 / 志怪 / 寺社縁起 |
研究実績の概要 |
2021年度は宝積寺十一面観音菩薩立像と浄瑠璃寺吉祥天立像を主要な研究対象とした。 宝積寺像に関しては、寺の草創と造像にあたって重要な信仰背景になった可能性が非常に高い、山崎橋の架設にまつわる説話を分析した。同時に、聖なる存在による奇跡的な架橋をものがたる南北朝~宋代の志怪などの中国の説話や史料を多く収集・分析し、山崎架橋説話との比較をおこなった。その結果、山崎架橋説話は中国説話の延長線上に位置づけられるとの見通しが立ち、鎌倉時代の再興造像においても像にまつわる説話性、すなわち「架橋の奇瑞を起こした観音」という性格設定が大きな意味を持っていた可能性が浮かび上がった。文学研究・歴史学研究の分野ではこれまでにも橋の境界性がしばしば論じられてきたが、美術史研究の分野ではこうした研究成果はあまり注目されることがなかった。それは架橋の主体としての聖なる存在や、架橋と仏像の関係が議論の俎上に上ることが少なかったことが一因と思われるが、本研究では阿弥陀如来像による橋の修復を記す史料など、山崎架橋説話の中国における先例と位置づけうる有益な情報が確認され、宝積寺像の汎アジア性という議論の立脚点を見出すことができた。 また本研究開始後、吉祥天は奇瑞との関係が深い尊格であるとの見解が得られたことから、その代表的作例である浄瑠璃寺像に注目し、関連史料の収集に努めた。本像に関しては奈良時代以来の吉祥悔過との関連が示唆されるとともに、天平復古や宋風受容といった観点からその表現が理解されてきたが、近年は鎌倉時代の南都で活躍した貞慶の関与が説かれ、一方では奈良時代以来の「唐美人」表現の一形態であるとの位置づけもおこなわれ、研究は新たな段階に入りつつある。本研究では南都における吉祥天信仰の様相をものがたる史料を収集し、そこに見られる奇瑞への言及や光明皇后の信仰に遡及する意識を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス蔓延による対外活動縮小にともない、作品の実地調査は2022年度以降に先送りした。ただし、文献史料の収集が進んだため、研究の方向性をおおむね固めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に見送った実地調査をおこない、そこから得られた知見と2021年度中に集積した文献史料の分析結果を統合することを目標に研究を進めたい。宝積寺像に関しては、これまで架橋説話の収集を中心に研究を進めてきたので、今後は造像に携わった比叡山僧の勧進活動と山内における抗争の問題について情報収集したい。浄瑠璃寺像に関しては造像の位置づけの考察は見通しが立ちつつあるので、これまでに得られた知見を基礎としつつ、南都において吉祥天の起こす奇瑞(夢告、動き)が重視された歴史的・地理的背景をあきらかにしてゆくことを研究の主眼としたい。
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