研究課題/領域番号 |
21K00168
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
中江 花菜 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 学芸研究員 (90899303)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 額縁 / 洋画 / 東京美術学校 / 長尾建吉 / 明治美術 |
研究実績の概要 |
本研究は近代日本における洋風額縁製造の第一人者である長尾建吉が製作した洋風額縁について、その着想源・製造法そして意匠についての全容を明らかにすることを目的とする。明治期以降、国内では洋画団体の活動が活発化するにつれて絵画作品が頻繁に展示されるようになり、作品を壁面に固定する枠組みである「額縁」が必要になった。長尾は西洋の意匠や製造技法を取り入れながら、各々の絵画作品や日本の展示空間に見合う額縁を製造し、洋画の発展を陰ながら支えてきた。だがその功績にもかかわらず、その存在は日本近代洋画の研究史では見過ごされてきた。そこで本研究では、本学の前身・東京美術学校に長尾建吉が納入したと記録される150点超の現存作品を主な研究対象として、洋画黎明期における長尾の活動を明確化することを目指す。 令和3年度は東京美術学校の後継にあたる本学・東京藝術大学での基礎研究と情報収集に努め、1)長尾建吉が納入した作品を囲む額縁の簡易撮影とリスト化、2)一次資料・文献の収集、3)額縁研究の先行研究となる書籍の収集を行った。額縁は出版物において常にトリミングされてしまう存在であるため、本研究を遂行するためには額縁込みの作品写真を再撮影する必要があった。本研究の核となる作品は上述のように本学に150点以上存在し、その額縁を一つずつ簡易撮影する作業にはかなりの時間を有したが、初年度はこの基礎作業に注力し、9割程度の作品を実見し、簡易撮影することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の計画通り、学内での基礎調査を中心に行った。研究の中核に据える作品群と額縁が本学所蔵の作品であることから、比較的容易にアクセスすることが可能であり、額縁の簡易撮影やリストの作成が順調に進んだ。さらに長尾建吉が本学の前身である東京美術学校に作品を納入した経緯や正確な作品数を探るために、館内に保管されている東京美術学校文庫関連資料のほか、本学近現代美術史・大学史センターにて関連すると思しき資料の閲覧を行い、資料の収集に努めた。さらに、長尾家のご遺族のご厚意により、長尾建吉が創業した磯谷商店の資料を多数ご提供・ご公開を賜ることが叶い、長尾建吉と洋画家たちの交流などについてより具体的に分かる資料を得ることができたことは特筆に値する。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進に際し当初の計画から特筆すべき変更はなく、2年目も予定通り進める。初年度に作成した作品リストと簡易撮影した額縁の画像を用いて、長尾建吉が東京美術学校に納入した作品を囲む額縁の装飾の分類・整理を進め、その額縁の特徴・様式について明らかにする。 令和4年度には「磯谷商店以前」の洋画を囲む額縁の状況についても解明する。具体的には「近代洋画の開拓者」として知られる高橋由一の作品や、明治美術会への出品作品を囲む額縁について、文献資料や写真資料を用いるだけにとどまらず、実物を目の前にして装飾や構造を確認する。本調査についても本学収蔵作品を中心とし、必要に応じて感染症対策を講じながら国内美術館にて熟覧を行う。 上記調査に併せて、令和4年度も令和3年度に得ることが叶った長尾建吉関連資料の精読を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響を受け、1)近隣大学の図書館や国立国会図書館の利用に制限が設けられたこと、2)不急の出張は制限した方がよいと判断したこと、3)同様の理由でアートハンドラーを雇い入れての作品移動作業も不急であると判断したことから、移動を伴う調査はなるべく控え、研究者自身のみでできる作業を優先したため次年度使用額が生じた。令和4年度は行動制限が緩和されたことを鑑み、必要な感染症対策を講じたうえで、国内調査を集中的に行うことを予定している。
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