本研究は近代日本における洋風額縁製造の第一人者である長尾建吉が製作した洋風額縁について、その着想源・製造法そして意匠についての全容を明らかにすることを目的とする。最終年度は以下の3点を重点的に行った。1)前年度までに実見した額縁の装飾例の分類・整理(前年度からの継続課題)、2)東京藝術大学に残されている旧額の調査、3)国外(ロンドン)において額縁の調査と研究者との意見交換、である。とりわけ、額縁研究が進むロンドンにおいては、1)で得られた調査結果を踏まえて4機関6名の研究者と意見交換を行い、ナショナル・ギャラリー等の美術館で様々な様式の額縁を実見した。これにより日本の洋風額縁における西洋由来の要素と、長尾の額縁にみる「日本性」について新知見を得ることができた。2)については、大学美術館に取り置かれた「かつて作品が収まっていた空の額縁(旧額)」を調査し、元々収まっていた作品の同定など、額縁研究の新しいアプローチに挑戦した。 研究期間を通じて、東京芸術大学大学美術館をはじめ各地の美術館・博物館にて絵画作品と額縁の実見調査や資料収集を重ね、日本における額縁研究に新知見と新資料をもたらすことで、国際的な潮流から遅れを取る日本の当該分野の研究に先鞭をつけた。個別の作家や作品研究が主流である日本近代の西洋美術受容研究に、洋風額縁という新たな視点を持ち込んだことに本研究の意義を見出せるだろう。これらの研究成果は、同大学大学美術館年報で発表した論考や大学博物館等協議会・博物科学会での口頭発表にて報告した。
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