研究課題/領域番号 |
21K00175
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岡添 瑠子 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (50803623)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 現代美術 / 展示 / 画廊 |
研究実績の概要 |
今年度はまず、かんらん舎におけるインスタレーションや展示について考察するために、かんらん舎が日本で作品を紹介した抽象美術作家ブリンキー・パレルモに焦点を当てて資料収集と作品研究を行った。具体的には、パレルモの一連の壁画作品(1968-73年)についての分析を行った。パレルモの壁画は、展示室の建築的特徴や構造への介入を行うものであったと同時に、鑑賞者の平衡感覚や時間感覚など、身体感覚に関わるものであったことを、画廊での展覧会を中心に考察した。60年代には、同じように作品と身体の関わりを提示する作家が登場したが、パレルモの場合、構成主義など20世紀初頭のアヴァンギャルド芸術の影響を受けている点が特徴的である。ここで得られた知見をもとに、現在、パレルモと共通の意識が見られる作家についても、かんらん舎での展示との関連から分析を行っている。また、かんらん舎が海外の現代美術を紹介したことの意義を考えるために、70年代の日本における海外の同時代美術、特にコンセプチュアル・アートの受容に関する研究を行った。その結果、70年代半ばまでには、海外のコンセプチュアル・アートが積極的に紹介されなくなっていたことが、当時の美術雑誌から見出せた。文献調査に加え、書簡や展示指示書などの一次資料のデジタルデータ化と分析を行った。これは今後、かんらん舎の画廊としての活動についての考察のみならず、作品研究の上でも重要な資料となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画では、①関連作家の資料収集と作品研究と展示に関する研究、②1980年から1993年までの書簡・展示指示書類のデジタルデータ化および分析を目的としていた。 ①については、ブリンキー・パレルモの作品に関する資料収集と作品研究を行った。作品研究としては、パレルモの一連の壁画作品(1968-73年)についての分析を行い、この調査をもとに「ボイス+パレルモ」展に際して行われたシンポジウムにて口頭発表を行った。 ②の資料のデジタルデータ化と分析については、研究の過程で、かんらん舎が海外の美術を紹介する以前の日本におけるコンセプチュアル・アートの受容について考察する必要が生じたため、今年度の活動としては優先度が下がってしまった。目下、書簡のスキャンと翻刻を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、書簡や展示指示書、写真など一次資料のデジタルデータ化を行うと共に、展示・作品に関する調査と分析を行う。具体的には、かんらん舎と関わりの深いドイツの作家イミ・クネーベルやハンネ・ダルボーフェンの作品と展示について、展示のあり方に関するアーティストの思想と実践、そしてかんらん舎の展示方法との関係性を考察する。また今年度発表が叶わなかった研究成果と併せて、論文を執筆したい。また可能なかぎり、夏に海外での資料を行う。かんらん舎で展示した海外作家の多くは、日本ではほとんど展示や活動をしていなかったため、海外調査によって、国内では入手困難な文献資料の入手を見込んでいる。国内での調査としては、かんらん舎で展覧会を行った国内作家への聞き取りを実施して、80-90年代の日本の状況とかんらん舎の実践についても理解を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査のため海外出張をする予定であったが、新型コロナ対策により実施できなかった。次年度には夏季休暇を利用して海外(ベルリン、3日間)調査を行う予定であり、その際の旅費および資料収集のための物品費として使用する。
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備考 |
・「パレルモの「新しさ」について」『国立国際美術館ニュース』第242号、2021年、5頁(https://www.nmao.go.jp/research_archive/publication/museumnews/) ・口頭発表:「Blinky Palermoの壁画について」「ボイスとパレルモ ── 二焦点の座談 二焦点の座談」ART TRACE PRESS 企画シンポジウム、2021年8月22日
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