本研究は、1980年代から90年代初頭に欧米の現代美術を日本で紹介した画廊、かんらん舎を考察の対象とし、国際的かつインディペンデントなその活動が当時の美術界においていかなる意義を持っていたかを検証した。考察にあたっては①作家との書簡や展示プランといった一次資料の分析および聞き取り調査を行うことによって、作家の立場を重視した活動の詳細が明らかになった。また②インスタレーションを中心とした特徴的な展示形態に焦点を当て、作家と共に展示を立ち上げていく中で、展示空間と作品の関係性を重視するようになった過程を明らかにした。とりわけ滞在制作は、現場での制作と展示が作家たちの表現方法とも密接に結びついており、展示空間そのものを思考の場として捉えるかんらん舎の姿勢を特徴づけるものであった。従来のギャラリストや画商の枠組みを超えたかんらん舎の活動は、特に作家から高い支持を得ていたものの、その多くが海外の作家であったこともあり、日本の戦後/現代美術史の中には位置付けられてこなかった。しかし歴史的な視座から見れば、当時の国際的潮流であったニューペインティングを持ち上げた美術市場の拡張の動きとは一線を画し、一貫してコンセプチュアル・アートやミニマル・アートの可能性を提示していたかんらん舎の活動が、批評的な視点から問いを投げかけるという芸術の一つのあり方を提示し、次の世代に繋ぐ大きな役割を果たしていたことが、今回の調査からも明確になった。
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