研究課題/領域番号 |
21K00179
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鈴木 桂子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (10551137)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 美術史 / グローバル・ヒストリー / 服飾史 / 異文化交流 / 経済史 / きもの文化 / 京都 |
研究実績の概要 |
研究成果の一部は、2021月12月2日に、シンガポールのYale-NUS (National University of Singapore) College主催によるオンライン国際ワークショップ“Designing Modern Japan: Visualizing the Modern Experience in Japan and Asia,”の基調講演“Designs and their Dissemination in Japan and Asia,” として発表した。本発表では、「きもの」文化から視る染色デザインのグローバル・ヒストリーについて、(1)染色技術と(2)消費・利用の二方向からのアプローチによる複数地域での研究の重要性を論じた。 また、2022月2月に、コラム「『正徳ひな形』のかたち:振袖・小袖・浴衣について」、その他の頁を分担した『西川祐信『正徳ひな形』―影印・注釈・研究―』(石上阿希・加茂瑞穂共編)が出版された。これは、正徳3(1713)年に出版された『正徳ひな形』を対象とし、当時の振袖・小袖・浴衣の、色や染色の技法、文様の形、それに見られる当時の習俗について共同研究した成果である。これにより、「きもの」の歴史的研究の基礎的理解を深めることができた。 日英の研究者4名と “Fashioning "Misunderstanding": Transcultural Engagements and the Material Culture of Fashion”というパネルを組み、The Association for Asian StudiesのAAS 2022 Annual Conferenceに採択され、3月26日に“Kimonos” and their Inspired Products as Embodiments of Global Entanglement“と題し発表した。これは、日蘭貿易により欧州へ輸出された「きもの」と、それに影響されたヤポンスロックの発展を、物質文化・史料の観点から調査・研究したものである。これにより、現存するヤポンスロックが、当時の小袖とは異なる特徴を持つことを論じた。 通年で、MCD(民博コスチュームデータベース)プロジェクトに参加し、英語検索プロトタイプ構築・「身装画像データベース」の解説文のバイリンガル化に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の進捗には、新型コロナウィルスの感染状況が強く影響していると言わざるを得ないが、アロハシャツについては、上記のAAS 2022 Annual Conference参加の機会を利用し、ハワイでの現地調査を遂行することができた。アロハシャツ関係業者への聞き取り調査の他、ホノルル美術館のアロハシャツコレクションの調査及び学芸員との意見交換、また参考資料の購入などもでき、その面では研究は大きく進捗した。また、アロハシャツのアジア各地での利用状況の情報収集もかなり進んだ。これらをベースとした、米国本土及びハワイとアジア各地での本格的調査は、2022年度以降となる予定である。 2021年度は、ハワイでの聞き取り調査以外、国内外での聞き取り調査は計画通りに進まなかったが、文献調査はかなり集中して進めることができた。19世紀前半以降の日本機械捺染史(輸入・輸出を含む)の再検証・補完に関しては、日蘭貿易による機械捺染生地の輸入の歴史についてかなり理解を深めることができた。また、通年で、MCD(民博コスチュームデータベース)プロジェクトに参加し、英語検索プロトタイプ構築・「身装画像データベース」の解説文のバイリンガル化に取り組んだ。これに伴い、近代日本身装文化の変容の様子、特に明治以降戦前までの和装と洋装が拮抗していた期間の「きもの文化」を詳細に分析し、洋服と「きもの」の関係と、その様相を検討することができた。 アフリカン・プリントについては文献調査を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、コロナ感染拡大防止の観点から計画していた国内外の調査を後ろだおしにしせざるをえなかった。全体として研究期間内での研究遂行を目指す。今後の年度ごとの計画を、以下に述べる。 2022年度:可能であれば北関東・京都での調査をすると共に、アレワ・テキスタイルズのデータベース構築を開始する。また、19世紀前半以降の日本機械捺染史(輸入・輸出を含む)の再検証・補完に関しては、これまでの文献調査で、日蘭貿易による機械捺染生地の輸入の歴史についてかなり理解を深めることができたので、本年度は、戦中に著された『機械捺染史』の内容を検証・補完し、「新しい機械捺染史」を構築するため、戦後出版された京都の繊維関連企業の社史・キモノ関連産業の協同組合の史料などを収集・調査し、データを収集する。収集したデータは、デジタル地図上にマッピング・整理し、デジタル・アーカイブとして研究に役立てる。 2023年度:文献調査を進めるとともに、国内外での調査の遅れを取り戻していく。アロハシャツに関しては、これまでの文献調査で、16世紀以降の輸入更紗から、和更紗、手描き・型友禅、手捺染、機械捺染への染色技術・デザインの展開の解明とともに、アロハシャツのアジア各地での利用状況の情報収集もかなり進んできた。これをベースとし、ハワイ・米国本土の戦争博物館、歴史資料館でも調査する。アレワ・テキスタイルズのデータベース及び「新しい機械捺染史」の構築を継続。 2024年度:文献調査を進めるとともに、アレワ・テキスタイルズのデータベースに基づく研究をまとめていく。アロハシャツの補足調査(ハワイ、中国海南島、シンガポール)を実施する。 2025年度:単著刊行の準備を進める。また国際シンポジウムを企画、開催し、研究関心の研究成果の総括と次なる研究課題・問題点を討議する機会とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由の多くは、コロナウィルス感染拡大状況に起因する。拡大状況の影響を強く受け、今年度予定していた国内外での現地調査がほぼ実施できておらず、計上していた旅費が執行できていない。 今後の使用計画もコロナウィルス感染拡大の状況如何となることが予想されるが、次年度に、国内外の調査が可能となるようであれば、旅費・参考資料購入に研究費を執行する。また、資料整理・データベース構築の補助に学生アルバイトを雇用する。
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