研究課題/領域番号 |
21K00181
|
研究機関 | 京都芸術大学 |
研究代表者 |
河上 眞理 京都芸術大学, 芸術学部, 教授 (20411316)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 家屋装飾 / 室内装飾 / 美術建築 / 辰野金吾 / 木葉会 / 近代日本美術史 / 近代日本建築史 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の近代美術史及び近代建築史研究においてほとんど重視されてこなかった「家屋装飾」という分野を、美術と建築を横断する〈美術建築〉の観点から分析し、その歴史的位置付けを明らかにするものである。 新型コロナウイルス感染拡大防止による活動制限により調査出張はほぼ不可能だったが、既に入手していた膨大な資料を読み進めることによって、研究上の課題の一部をクリアできつつある。 初年度となる2021年度は、辰野金吾が欧州留学経験によって得た〈美術建築〉という概念が、日本においてどのように広がったのかを文献資料を用いて検討した。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の同窓会として知られている木葉会は、その創設当初においては建築に関することのみならず、美術に関する活動を活発におこなっていたことを具体的に跡づけることができた。これらの活動は辰野が伝えた〈美術建築〉観の浸透を示すものと判断できる。 〈美術建築〉とは19世紀イギリスで提唱された、人の手が造り出す精度の高い美術的な装飾が施されることで完全性を獲得する建築を指す。これを実践するために、建築家は狭義の建築に関わるだけではなく、絵画や彫刻など装飾も含めたトータルデザインとしての建築観が必要とされる。辰野は留学中に師匠のウィリアム・バージェスから絵画修養の必要性を説かれ、美術学校に通いデッサンの修養に努めた。こうして得た辰野の建築観は創設当初の木葉会の活動にも反映されていた、と指摘することができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、明治期に辰野金吾らが中心になって日本へ導入した〈美術建築〉という観点に立ち、美術と建築のマージナルな部分に位置する家屋装飾を、美術と建築の横断的視野から検討すべく四つの観点を掲げ、各年度に一つずつ研究を進める計画を立てている。 初年度はその第一の観点である、辰野の〈美術建築〉観による家屋装飾の実際について文献資料調査を中心に検討した。その結果、創設当初の木葉会において、建築を専門とする者たちの絵画修養の実態をある程度、解明することができたと思われる。 調査研究の成果を2022年末刊行の明治美術学会誌『近代画説』31号において論文として掲載する予定である。同誌には毎号特集が組まれているが、31号は本報告者がまとめ役となって〈美術建築〉に関する特集を組むことが決定している。複数の研究者とともに、誌上において〈美術建築〉を縦横から検討するための準備も進めており、研究の進捗状況は良好である。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大防止による活動制限次第ではあるが、海外調査の可能性は極めて低いと考えられる。よって、研究2年目の2022年度は明治期における家屋装飾の実際についての国内での調査研究を開始する。 明治期における家屋装飾家を代表し、辰野建築を含む明治期建築の室内装飾を複数手掛けた人物について検討する。国立公文書館、地方の図書館・文書館等において、修学の実態に関する調査を通して、日本における家屋装飾の実際を明らかにする。また可能であれば、当該人物が手掛けた建築を実見する。文献調査と併せて、明治期の家屋装飾の理想と実際を解明できるのではないかと考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止による活動制限により、予定していた京都から東京への調査出張(複数回)が全く出来なかったため。
|