研究課題/領域番号 |
21K00207
|
研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
相原 健作 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (50376894)
|
研究分担者 |
原田 一敏 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 教授 (20141989)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 文化財 / 鍛金 / 彫金 / 非破壊分析 / 刀装金物 |
研究実績の概要 |
日本の金属工芸は、室町時代以降、刀剣及び刀装金具を中心に隆盛した。刀装金具の高度 な技術は、明治時代において輸出を担う金属工芸作品に転用されて、殖産興業の基盤となっ た。現在も刀剣・刀装金具は、日本独自に発展した精緻な美術品として国内外で評価され注目されている。 刀装金具の今までの研究は、材料学・表面科学に基づく解析は殆ど行われてこなかった。先行研究において、室町時代に制作された金の装飾が施された小柄を材料学的な分析調査を行ったところ、固着された金から水銀が検出され水銀で金を接合したという新たな可能性が示された。本年は、室町時代から江戸時代までに制作された刀装金具3点を目視観察、SEM観察、エネルギー分散型X線(EDX)で水銀の分布状況を調査した。定説では、水銀はアマルガム鍍金の着色材料としてのみ金属工芸技法に使用されると考えられていた。その使用例として金銅仏を代表として大きな面積を金色に輝かせる特性をもつ。 しかし今回の調査において、資料の一つに赤銅の地板に細かな金の装飾がアマルガム鍍金であることが推定された。いままでは、金を象嵌法、またはロウ付け法によって赤銅の上に金を固着したと考えられたが、象嵌をした痕跡が見当たらないこと、ロウ付けの成分が検出されないこと、分析により多量の水銀は検出されたことによって定説が揺らぎはじめた。今後、調査資料を増やして金の装飾部の付近の水銀分布状況やSEM観察、並びに文献調査をおこなうことで金属工芸における水銀の役割を調査していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刀剣、刀装金具は時代を超越した金属工芸品として、現在も国内外で高い評価をされて注目を集める。美術鑑賞としての評価が先行する一方で、自然科学的に基づく研究や解析はほとんどおこなわれてこなかった。 令和3年度は、文献調査・聞き取り調査をおこない刀装金具の内の目貫、小柄、笄の三所物と呼ばれる3種類の金具の制作手法及び装飾手法、使用された地金の種類を把握した。小柄は笄、目貫と異なり、ロウ付けによって接合され制作されていて、その接合する部位により、数種類に分類される。小柄の形状再現実験に向けて一枚の板材から作る「片手張り」、二枚の板材から作る「二枚張り」の資料収集をおこない、令和4年度で再現実験をする資料の選定をおこなった。室町時代から江戸時代までに制作された刀装金具3点を目視観察と非破壊分析装置の走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)で水銀の分布状況を調査した。刀装金具では、金の部位からは数%の水銀が検出される。これは、金の採掘の際に、水銀を使用したからと推定している。今回調査した、「葵紋目貫」の金の部位から12%の水銀が検出された。この数値から、葵紋目貫使用された金は、金板ではなく、水銀に金を溶かし込んだ金アマルガムを使用して、本体に金鍍金を施したと結論づけた。この結論は定説と異なるので今後、調査資料を増やしていくと共に文献調査、聞き取り調査をおこない、あらゆる角度から研究を進めていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
本年は、昨年調査をした小柄の形状再現実験と刀装金具における水銀の役割の調査を非破壊分析機器を活用して進めて行く。小柄の形状再現実験では、一枚の板材から折り曲げて形を作り接合が一箇所の「片手張り」と二枚の板材から最中の皮のように形を合わせて作る接合箇所が2箇所の「二枚張り」をおこなう。実際に再現実験をおこないオリジナルの資料と比較検討することで、当時の技法を推定することと新たな気づきが現れる。 刀装金具に使用される金に水銀がどれくらい含有しているのか、資料数を増やして調査を進めて行く。また当初の予定には入っていなかったが、金の採掘から金材料になる過程で水銀が使用されたと考えるので、文献調査や実地調査を進めて、金板になるまでの過程を確認していく。そして水銀が接合材料として使用できるのか、接合実験をおこない、接合強度を調べていく。なお水銀を使用した実験には、注意して進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度、調査を予定した資料を借りることが出来なかった。そのために実験費及び旅費などを使用しなかった。本年は、新たな資料を探して、その実験費として使用する。
|