最終年度はまとめとして、シューベルト《冬の旅》のドイツ文化圏の伝統的理解への読み直しを「菩提樹」に絞ったドイツ語論文、Der sterbende Lindenbaumを本研究代表者・梅津時比古の著書としてを2023年5月にドイツ内で刊行した。 またこの概念と視点を更に深めるため、Harald Schwaetzer前クザーヌス大教授、モーゼル音楽祭監督のTobias・Scharfenberger(バリトン)、翻訳家でピアニストのErika Herzogの三人が来日、日本側からは八巻和彦早稲田大名誉教授、桐朋学園大から大島幾雄特命教授、星野明子特任教授、研究代表者・梅津らが参画、本研究の一環として、《冬の旅》に関するコンサートやマスターコースとシンポジウムを2023年9月に開く予定であった。 しかしSchwaetzer前教授が急病で来日不可となり、シンポジウムは中止、代わりにSchwaetzer前教授の基調論文、八巻、大島、星野、梅津による質疑応答を文章にまとめ「紙上シンポジウム」の小冊子を刊行した。結果としてシンポジウムの記録以上に充実したものとなった。桐朋学園宗次ホールで開催された《冬の旅》コンサート(無料)は学生、教員以外にも解放し、Scharfenberger音楽祭監督(バリトン)と古野七央佳・桐朋学園大学嘱託演奏員(ピアノ)が出演、研究を反映した新しい解釈によって満員の聴衆に感銘を与えた。その新解釈(例えばドイツで忘れられた風見鶏の意味)や、日常における異文化間の誤読を追求する比較文化論において詩と楽曲の合体である歌曲が社会問題を剔抉するツールとして存在してきたことなどは「紙上シンポジウム」にも反映している。これらは本研究課題を研究者内にとどめず、ドイツにおける研究者および一般読者、日本における本研究関係者以外の外部にも成果を広げ、共有できる最終年度のまとめとなった。
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