研究課題/領域番号 |
21K00218
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐藤 英 日本大学, 法学部, 准教授 (10409592)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ナチス / クラシック音楽 / マスメディア / ラジオ / 音楽政策 / プロパガンダ / ドイツ / オーストリア |
研究実績の概要 |
2021年度は海外におけるリサーチができなかったため、関係機関に複写請求が可能なものをメインに調査を行った。例えば、スイスにおいて調査を予定していた当時のラジオ新聞については、所蔵館のご厚意により、その一部をデジタルデータで入手することができた。この資料を活用することにより、これまでの調査で情報が不十分だった1941年6月から10月頃の番組について、多くの事例を得ることが可能となった。海外所蔵の資料については、近年、インターネットにおいて公開されている新聞等も増えてきたため、これを活用して当時の放送実績等に関するデータも数多く把握できた。以上のような新たな資料の発見を目指す作業に加え、本年度は、すでに所有している資料のうち、本研究に関係しているものをあらためて読み直すことも行った。この作業により、今後の研究で活用可能なものをピックアップすることができた。 2021年度に刊行した2本の研究論文のうち、ナチス・ドイツ時代のクラシック音楽番組における録音の重要性を詳細に扱ったものとして、1944年8月から10月のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の活動に関するものが挙げられる。この論文では、無観客で行われた多数の放送用録音の制作スケジュールや演奏家の報酬について、可能な限り網羅的に実例が示されるだけでなく、当時の新聞に掲載されたラジオ番組の放送スケジュールや番組の批評記事を手掛かりに、制作された録音がどのように使用/受容されたかについても考察されている。本論文により解明できた当時の実情の一端とは、第一に、ウィーン・フィルは管弦楽曲に加え、オペラにおいても優れた演奏ができるオーケストラであったため、ラジオの番組制作に積極的に起用されていたこと、第二に、放送局のアーカイブにストックされたこのオーケストラの録音が巧みに活用され、多彩な音楽番組となって聴取者に届けられていたことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は勤務校の規定で海外渡航に制約が設けられていたため、現地においてのみ参照可能だった資料に基づく研究に着手することができなかった。そのため、デジタル複写等により資料が入手できるものについて、予定よりも前倒しで入手するようにした。 例えば、本研究のために、スイスのラジオ新聞を活用することを考えていたが、全文複写の許可を得た。特に、ドイツの新聞から得られる情報が極端に少なかった1941年6月から同年10月頃の番組に関しては、この複写資料を活用することにより、多くの事例を集めることが可能になった。また、ベルリンで刊行されていた新聞についても、日本国内に所蔵されていないものをマイクロフィルムで入手できるものがあることがわかってきた。本年度は、本研究全体を改めて見直し、この基盤を形成するために特に重要と思われるものをピックアップし、その一部を入手した。新聞のマイクロフィルムの入手にあたっては、新型コロナウイルス蔓延とその対策の影響により、現地から発送されるまでに多くの時間を要した。そのため、この内容について精査する時間を当年度中に十分に確保することができず、次年度以降の持ち越しとしたところが多かった。 2021年度は、資料を整えながら個々の課題を完成させていくという、当初予定していたプロセスによって研究が進められなかったものの、これまでに入手していた資料を再検討する時間が多く取れたことで、本研究においても利用できるものをあらたに見出すことができた。新しい資料にアクセスすることにより研究を先に進めていくことも重要ではあるが、社会情勢等によって強いられたことではあったとはいえ、ここでいったん立ち止まる時間を得たことは、研究の足場を見直す良い機会となったように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
この後の研究遂行に当たっては、新型コロナウイルス問題に加え、国際情勢も影響を及ぼしてくることが予想される。特に、海外でのリサーチにあたっては、状況が流動的である。それゆえ、2021年度と同様、研究の展開を大局的に見据えながら、アクセスが可能なところからリサーチを行い、研究成果の公表も柔軟に対応していきたいと考えている。 現時点(2022年4月)においては、本研究の後半で予定していた、放送シリーズの実情把握と分析について、前倒しで実施するつもりである。本研究を開始する前に実施していたリサーチで、この研究のための素材は多く入手していた。新たに資料を足していくことでその範囲を広げていく計画だったが、2021年度のリサーチだけでも、例証となる事例を多く得ているため、個別に成果を公表できるケースもある。 海外での現地調査に関しては、特にベルリンとウィーンでのリサーチを、諸々の状況を見据えながら実施したいと考えている。これが難しい状況であれば、先に述べたように、放送シリーズの実情把握と分析を集中的に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、海外におけるリサーチができなかったため、残額が生じた。次年度以降、海外におけるリサーチが可能となった時点でこの残額を使用する予定である。 海外リサーチが長期にわたって実施できなかった場合には、研究の遂行上、必要となってくるマイクロフィルムの購入費や複写費に充てる予定である。
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