コロナ禍のリモートレッスンの質の向上を着想の発端とした本研究であるが、コロナウィルス感染の収束と2023年5月の第5種への引き下げに伴い、本研究で発案した音声可視化システムを用いたデータを活用した歌唱指導法や、1890年~1950年代までのSPレコードに残る音声ならびに歌唱技術解釈に研究の軸を移した最終年度となった。 初年度は、コロナ禍で機材の入手に関して遅れも生じたが、音声可視化システムの構築と実用性の確認を行いながら、実際に歌唱時の音声可視化データを用いた歌唱指導を行うまでに至った。また可視化データの分析に関しての知識が必要な事もわかり、本研究を指導法に繋げるには音響家との可視化データ分析法を論じる必要性も確認した。 次年度にかけてSPレコードにおける様々な歌声を収集し、その歌唱技術や音声の分析を行いながら現代歌唱における歌声との差異を考察することとなった。 2024年3月に国立音楽大学で実施された本研究協力者である石丸耕一氏との日本音響家協会シンポジウム「楽器を知ろう 声楽編」では実際に本研究で発案された音声可視化システムを用いてプロフェッショナルの音響家の皆さんにシステムの実用性を確認いただいた。実際に聴覚と視覚の両方の見地からプロの音響家の皆さんに声楽家の歌唱技術に科学的で汎用性の高い本システムを通じて、音声をアナライズする方法や活用法に関して意見交換出来た事は本研究の頂点もいえるイベントだったと言える。 声楽学習者に対して音声可視化データによる指導の有用性も一定数認められた。しかしながら歌唱は本人の感覚的な印象に支配される事も大きく、学習者の共感したり目指すべき外的な歌声が変わらなければ学習成果の停滞に繋がることから本研究を通じ、彼らの想像力の指針となる『SPレコードに残る歌唱技術の歴史と分析を伴った鑑賞法の体系化』という新たな研究に至っていることも成果と言える。
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