研究課題/領域番号 |
21K00223
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研究機関 | 浜松学院大学短期大学部 |
研究代表者 |
舟橋 三十子 浜松学院大学短期大学部, その他部局等, 講師 (00360230)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ソルフェージュ / フォルマシオン・ミュジカル / フォルマシオン・ミュジカルのテキスト / 音楽理論 / 聴音・新曲視唱・新曲視奏 / 音楽基礎教育 / 教材開発 / パリ音楽院(コンセルヴァトワール) |
研究実績の概要 |
音楽の基礎教育であるソルフェージュは、「読み書きそろばん」の音楽版である。すなわち「読み」は楽譜を読むこと、「書き」は楽譜を書くこと、「そろばん」は楽器を演奏することである。この基本的なソルフェージュ能力が、日本では近年低下していることが問題になってきているが、原因のひとつとして考えられるのは、適切な教材不足による教育方法の偏りである。 そのため、従来の「聴音」、「新曲」、「コールユーブンゲン」に代表される日本のソルフェージュの旧態依然とした音楽教育指導を払拭する必要があった。第一段階として、まず「和音」についての著書を出版し、難しいと思われている音楽の理論の一端を分かり易く、親しみ易く書き著すことに策をこらした。 まず初年度は、ソルフェージュの本場であるフランスでの教育事例を、現地で調査する予定を立てた。具体的には、海外研究協力者であるパリ音楽院の渡辺りか子教授に会い、ソルフェージュの授業参観やソルフェージュ教育の現状を尋ねる予定で、フランスにおける音楽家としての基礎訓練の実践方法と、新しいソルフェージュ《フォルマシオン・ミュジカル》のテクストの現地での使用調査を行うつもりで計画を立案したが、前年度からの新型コロナウイルス禍のため、日本では海外渡航制限や帰国してからの隔離措置があり、フランスでもホテルやレストランの閉鎖だけでなく、音楽院の訪問や資料・楽譜の購入も不可能という行動制限がある状況を考え、渡仏を中止せざるを得なかった。 その上、2022年2月からはウクライナ問題が起こり、今後の予定が全く計画通りにはいかない可能性も出てきた。常に世界の状況に目を配り、最新のニュースを入手して、海外渡航が計画通りに行かない場合の暫定的な方法も視野に入れて行動することにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年頃から始まった新型コロナウイルス禍が、予想以上に世界的な広がりをみせ、日本でも緊急以外の海外渡航は政府により禁止され、フランス国内でもマスクの常時着用はもちろんのこと、パリでも不要不急の外出は止められ、音楽院(パリだけでなく、地方の他のコンセルヴァトワールも含む)も閉鎖されている状況が続いていた。さらに、楽譜・資料を購入するための店も閉鎖され、多くのホテルもレストランも閉店の状況になったため、海外(主としてフランス)での情報・資料収集ができず、まったく身動きがとれない動静がこの春まで継続していたのが現状である。勤務の関係上、海外への渡航は、夏休みか年度末の3月のみに限られていた。そのため初年度に考えていた予定が全てキャンセルになってしまった結果、次年度に繰り越し、研究も学術調査も中途半端の状態が現在まで続いている。 日本国内でもフランスと同様な状況が起こっており、音楽会の延期・中止、学会参加の延期・取りやめ、他大学の授業見学等の予定が計画通りにいかず、研究や情報収拾も中途半端の状態がほぼ1年間続いており、研究は予定通りには進んでいない。 予想外のコロナ禍で、先の予定を立てることが難しく、行動範囲が制限されているため、残りの研究期間で、初年度に計画・予定していた研究調査を推し進め、遅れを取り戻したいと考えている。 ただ、執筆に関しては、まとまった時間が取れた結果、音楽理論の根幹のひとつである「和音」についての書籍を2022年2月末に出版することが出来た。またこの著作を用いた講座(音楽教育指導者向け)を実施することが決定しているので、今後はこの講座実施という方法によって、新しいソルフェージュの考え方を音楽指導者に普及させて行くという方面からの研究を推し進め、基礎的な訓練方法については、引き続き調査・研究に力を注ぎたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
科研費に採択された当時には考えられない世界的な状況の中で、とりあえず、先にできる国内での意見交換、調査研究・講座実施・雑誌への寄稿等を行う予定である。 ただ、海外との交渉は、本研究上必要不可欠であるので、フランスでのニュースを常時入手しつつ、研究を進める計画である。2022年2月からは、コロナ禍同様、全く予期せぬウクライナ情勢の問題で、日本とフランス間の飛行機の運航状況が延期・キャンセル等、予測できないこともあり、予定を立てることができない事態が続いている。場合によっては変更できる、という前提にたっての航空券の入手に始まり、多忙な先方との情報共有や意見交換について、先の見通しが全く立てられない現状では、できる側面から研究を進めていく必要があると考えている。 海外研究協力者との学会に於ける研究発表も企画はしているが、この流動的な世界情勢を鑑みて、できる範囲で実現したいと考えている。スケジュールの調整や、関係者への通知等の準備に時間を要するため、現実的にはまだ一部の関係者にしか告知できておらず、ペンディングの状態にある。 今後、これからの新しいソルフェージュの考え方を、雑誌への寄稿やWEB上での配信など、いくつかのメディアを活用して情報発信を続けるつもりである。新たな基礎音楽理論の考え方の必要性は、これらを使用した講義・講座の機会を普及させて初めて理解・納得できるものであるので、これからの新しいソルフェージュの考え方を具現化した教材の普及を提唱していきたいと考えている。 また、2022年2月に出版した和音についての研究の著作(「和音の正体」:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス刊)をテキストとした講座を、日本全国の音楽指導者を対象にして、音楽理論の重要性や必然性を啓蒙するため、今後も続けていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年4月に科研費の採択が決定してから、コロナ禍が想像以上に長引き、国内の移動も制限がかかっている状況が続いていた。そのため、初年度に予定をたてていた海外研究協力者との情報・意見交換にも制約が生じ、順調には進んでいないのが現実である。海外での資料も、渡欧できないため入手不可能であり、本予算を計画通りに使用する機会がなかった。 しかも、コロナ禍による海外渡航制限が予想以上に長引き、加えて現在も続いているウクライナ紛争の長期化により、海外出張そのものが不可能となっているため、現地での情報収集が実施できない状況が続いている。オンラインでの資料請求や情報収集は可能ではあるが、実際の生の音や合奏を聴くことによって得られる体験とは全く別のものであり、オンラインでの限界を超えることはできない。 海外研究協力者との共同研究の発表には、このところの予想を超えた円安の影響で、燃料サーチャージがかなり高騰したため、想定していた以上に航空券代が値上がりし、計画した予算を超えることが考えられる。そのため、削るべき物品、その他の経費の節約や削減を念頭に置いて、使用額を調整していきたいと考えている。
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