研究課題/領域番号 |
21K00228
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
今井 祐子 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 准教授 (00377467)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 美術史 / 陶磁史 / セーヴル磁器 / 芸術産業 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、セーヴル磁器で用いられた上絵具に関する情報を探るべく、19世紀以降にフランスで発行された陶芸技法に関する文献を調査した。その結果、1)19世紀前半には、平塗りされる不透明色の上絵具を用いて磁器上に油彩画を複製することが流行したこと、2)1821年に「47番、肌用の黄色」(他の絵具に混ぜて使用する淡色絵具)がセーヴルの色シリーズに加わったことで、上絵具でもむらのない光沢を得ることが可能になったこと、3)19世紀後半になると磁器上に油彩画を複製することは流行遅れとなるが、装飾品を作るうえでは依然として良質な絵具が求められ、とりわけ色が鮮やかで、透明性や光沢性に優れ、剥離しない絵具が求められていたこと、4)硬質磁器をそれよりも装飾性に優れている軟質磁器に近づけるために、中火度絵具(1867年パリ万博と1873年ウィーン万博に出品)が考案されるなどして、上絵具の改良が行われていたこと、5)しかし、そうした上絵具の改良は、1882年に新硬質磁器が誕生したことで重要性が下がったこと、6)硬質磁器で用いられる上絵具は、新硬質磁器の上で用いるとより優れた光沢が得られること、7)1880年代に新硬質磁器用の盛絵具(盛り上げて塗りつける上絵具)が開発され、軟質磁器に施された絵具の厚みによってきらめいて見える装飾を、カオリン含有磁器の上にも施すことが可能になったこと、8)盛絵具の普通色の焼成温度は950℃、紫色は850~900℃であること、9)盛絵具を使用する際には、盛絵具を焼き付ける際に透明釉が失透するのを防ぐために、耐火性透明釉を用いるのが望ましいこと等がわかった。 調査対象とした文献は次の通り。セーヴル製作所長ブロンニャールの著書『陶芸概論』(第3版、1877年);セーヴル製作所の化学者サルヴェタ、ヴォグトの論文と著作;『フランス産業振興協会会報』所収の論考など。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた文献に関してはおおむね調査できた。しかし陶磁用上絵具の技術に関しては、『フランス産業振興協会会報』所収論考を引き続き調査して、セーヴル製作所だけでなく当時のフランス窯業会の動向も視野に入れて、技術の進歩を把握する必要があるため。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、主に以下の点に関する文献調査を行う。 ・19世紀から20世紀初頭にかけて製作されたセーヴルの新硬質磁器のうち、盛絵具で装飾された作品の情報(写真・製作年・法量・装飾担当者など)を集めて、盛絵具と他の装飾法との併用の実態を把握する。具体的には、フランスのカンペール美術館で常設展示されている約100点の作品群や、世界各地にある美術館の所蔵品、展覧会図録に挙がっている個人蔵作品の情報(インターネット上で公開されている情報を含む)を集めて、整理する。 ・新硬質磁器の盛絵具装飾では、18世紀セーヴルの軟質磁器に見られた華やかな上絵付装飾に近づくことが求められていたと言える。しかし、19世紀末から製作された新硬質磁器には当世趣味が要求した独自の表現というものもあるはずなので、18世紀の軟質磁器には見られない、新硬質磁器の盛絵具装飾ならではの技術や様式的特徴があるかどうかについて検討する。 ・『フランス産業振興協会会報』所収論考や各種博覧会資料などを調査して、セーヴルの新硬質磁器の盛絵具装飾の反響や、それがフランス窯業会へもたらした影響を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
出版社の都合等で、高額な大型図書数冊が次年度でないと購入できなかったため。
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