研究課題/領域番号 |
21K00231
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
針貝 綾 長崎大学, 教育学部, 教授 (70342425)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 美術工芸学校 / 美術工芸教育 / カリキュラム / ドイツ / シュトゥットガルト |
研究実績の概要 |
1年目となる令和3年度は,これまでに収集した資料を中心に翻訳や整理を行い,美術工芸学校が創設された1869年から,教育実験工房が附設される1902年までの美術工芸学校の前半の歴史について概要をまとめた。特に,同校の『年次報告書』によりカリキュラム等の分析を行った結果,以下のことが明らかになった。 1869年の設立当初,シュトゥットガルトの美術工芸学校は美術学校と総合技術学校に間借りし,教員も両校の兼務教員で構成されていたため,そのカリキュラムも従来の美術教育と建築教育を基礎とする構成になっていた。しかし,設立から10年程経過した頃から専門課程が細分化され,ヴュルテンベルクの産業界からの需要を反映して家具工業を中心とする構成となった。 美術工芸学校では予備課程(1年間)と専門課程(2年間)で授業が行われた他,毎年専攻ごとに懸賞課題が出され,その授賞式や展示は美術工芸学校の重要な行事のひとつとなっていたと見られる。実技や講義などの通常の授業で基礎的な技術や芸術性を身に付け,懸賞課題で実践的に作品制作に取り組み,競い合うことで,技術や芸術性を高める狙いがあったのであろう。 シュトゥットガルトの美術工芸学校では,家具工業と関連する美術工芸の専門教育が行われ,多くの生徒を集めていたが,同校の『年次報告書』には、家具工業に関する専門課程の生徒の卒業後の進路は明らかにされておらず,シュトゥットガルト手工業会議所でのマイスター試験の受験や合格者の有無についても言及されていない。 他方,図画教員になるための専門課程にも多くの生徒が集まり,筆者の予想に反して,図画教員の資格を得るための学士試験の合格者が他の専門領域の合格者よりも多いことが判った。図画教員の卒業後の進路についてはほとんどが勤務地しか分からないが,『年次報告書』に明示され,美術工芸学校にとって特筆すべき成果であったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度はまず国内の大学附属図書館等での資料収集を予定していたが,2月末になっても新型コロナウイルスの感染拡大が続いていたため,計画をやむなく中止した。そのぶん,研究のベースづくりや論文の執筆に落ち着いて取り組むことはできたが,シュトゥットガルトの美術工芸学校の創設に関わった人物や,初期の校長たちに関する,国内にある古い文献の調査は実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に調査できなかったシュトゥットガルトの美術工芸学校の創設に関わった人物や,初期の校長たちに関する,国内にある古い文献の調査については,今後新型コロナウイルスの感染が収まり次第,まずは国内の大学付属図書館等で資料収集を行いたい。それまでは,これまでに収集した資料の翻訳を行い,論文を執筆するなど,できることから研究を進めていく予定である。
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