研究課題/領域番号 |
21K00236
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研究機関 | 国立音楽大学 |
研究代表者 |
加藤 一郎 国立音楽大学, 音楽学部, 特別研究員 (60224490)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ショパン / 音楽様式 / 教授法 / 楽譜 / 書き込み / デュボワ |
研究実績の概要 |
2021年度は新型コロナ感染拡大のため海外調査が行えず、フランス国立図書館の電子図書館からカミーユ・デュボワ=オメアラ(以下「デュボワ夫人」)の楽譜をダウンロードして研究を行った。当年度はその楽譜に見られる「弧線」の書き込みに焦点を絞り、その内容を分析することによってショパンの音楽様式について考察した。本研究では弧線の指示をスラー、タイ、アルペッジョに分類した。 1.ショパンのスラーの特徴として、音楽的緊張が頂点に達する箇所ではスラーは用いられず、緊張がやや緩和する箇所でスラーが用いられるようになり、それが更に緩和する箇所でスラーは長くなる傾向にある。こうした特徴は、デュボワ夫人の楽譜の《練習曲》作品10-12ハ短調の第66~76小節への書き込みにも見られ、その第68小節では一音に一つのスラーが用いられていた。 2.ショパンの楽譜はタイの欠落が多く、そのために彼はしばしば弟子の楽譜にタイを書き込み、それを修正していた。デュボワ夫人の楽譜の《ワルツ》昨品64-2嬰ハ短調にはタイの書き込みが多く見られるが、それらはスケッチから製版用自筆譜に至る過程でショパンがタイを用いるかどうかを決めかねていたことを示していた。 3.ショパンは弧線を縦に記すことによってアルペッジョを指示することがあった。しかし、彼はこの方法を単なる和音ではなく、和音の最上音に上方隣接音からなる前打音を伴う際にしばしば用いていた。 これらから次のことが分かった。一音に一つのスラーを用いる方法は当該の音の響きを拡大することを意図したものであった。タイの欠落の多さは音楽的創意を優先したための不注意を示していた。また、縦型のスラーによって前打音の伴った和音をアルペッジョで奏する方法は彼のサロン的な美感を示すものであった。タイの使用に関しては対位法と関連する場合もあり、この点は今後の課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は新型コロナ感染拡大により海外調査が行えなかったが、フランス国立図書館から有益な資料がダウンロードできたため。
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今後の研究の推進方策 |
ルドヴィカ・イェンジェイエヴィチョーヴァとナポレオン・オルダの楽譜はポーランド国立ショパン研究所に所蔵されており、それらの楽譜のデータを捜索中である。ソフィア・ザレスカ=ローゼンガルトの楽譜とマリー・シュルバトフの楽譜は一部のデータしか存在しないだめ、現在、所蔵機関へ調査依頼を行っている。資料が入手出来次第、書き込みの項目毎に分析を続け、最後に全体の総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大のため、21年度に予定していた海外調査が行えなかったため。なお、この分の海外調査は安全対策を講じたうえで22年度以降に行う。
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