第一に、『早春』の台本と同時代の資料を比較検討し、作家里見弴が映画雑誌『シナリオ』で『早春』の台本への関与を明言していたことや、里見が日本映画の台詞をどのようにとらえていたのかを突き止めた。第二に、『麦秋』台本の一部が掲載された高等学校国語教科書の分析を通じて、小津の1950年代における受容の様相を明らかにした。第三に、脚本家野田高梧の1963年の手帳に小津の記録が残されていたことを発見し翻刻を行った。同手帳から、小津の次回作への意欲や入院時の様相を明らかにした。以上のように、小津が巨匠と評価される過程を、資料の精査を通じて示すことができた。今後、他の作品にも対象を広げての分析が課題となる。
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