研究課題/領域番号 |
21K00240
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
羽谷 沙織 立命館大学, 国際教育推進機構, 准教授 (10576151)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カンボジア / 古典舞踊ロバム・ボラン / クメール系ディアスポラ / ソピリン・チアム・シャピーロ / プルムソドゥン・アオク / ディアスポラ民間舞踊学校 |
研究実績の概要 |
1970年代後半の極端な原始共産主義体制を目指したポル・ポト政権下、諸外国へ亡命したカンボジア難民は23万人に上る。これらの人々が、移住先において、カンボジア伝統芸能である「古典舞踊ロバム・ボラン(robam boran)」を含む文化復興に携わってきた事例は、数多く見られる。本研究では、いわゆるクメール系ディアスポラと呼ばれる、ポル・ポト政権下で国外に離散したカンボジア難民の「カンボジアの外」におけるロバム・ボランに関する取り組みが、「伝統的」とされる本国のロバム・ボランの再定義につながり、その継承と革新にいかに貢献しているのかを明らかにする。福岡(2018)は、東南アジアの文化に関する従来の研究においては、都市と農村あるいは、伝統文化・宮廷文化と現代文化、ハイカルチャーとポピュラーカルチャーといった二項対立が所与の枠組みとして定着し、そうした考え方の中では、ハイカルチャーを消費する都市エリートとポピュラーカルチャーもしくはカウンターカルチャー(抵抗文化) を担う一般大衆という構図が主流であったと論じる。しかしながら、近年、カンボジアを含む東南アジアは、多様な価値観、それに付随する新しい文化表現のあり方を模索している。インドネシア、マレーシア、タイと同様に、カンボジアは近年、経済発展に伴う都市中間層の形成、教育水準の向上、ソーシャル・メディアの浸透によって、多層的なアイデンティティが文化表現を通して表象されるようになっている。カンボジアのロバム・ボランにおいてもまた、本研究で考察するように、近年、ディアスポラ民間舞踊学校を立ち上げた同性愛者のプルムソドゥン・アオク(Prumsodun Ok)によるロバム・ボランの継承という前例のない展開を見せ、伝統芸能としてのロバム・ボランという図式だけではとらえきれない様相を呈している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3つのアクターについてフィールドワークを通じた比較考察を行う。第1アクターとして、王立芸術大学舞踊学部舞踊学科古典舞踊コース(Royal University of Fine Arts, Faculty of Choreographic Arts, Department of Dance, Classical Dance Course、以下RUFAC)に着目する。第2のアクターとして、アメリカ・ロングビーチに位置するKhmer Arts Academyに着目する。第3のアクターとして、PrumNを取り上げる。アオクが考えるPrumNの社会的意義を掘り下げるとともに、PrumNに属するゲイ・ダンサー(6名)にもインタビューを実施し、ロバム・ボランが、性的マイノリティとしての自らの問題を社会化し、他者と共有するための媒体という役割を担っている様子を検討する。こうした3つの目標はアメリカとカンボジアへの現地渡航を伴うものであるが、コロナ感染症の感染予防の点および出国・入国制限とかかわって海外フィールドワークを控えざるを得なかった。この点研究の進捗は予定通りには進んでいないものの、こうした事情を鑑み、これまでの調査から入手した各種データをもとに論文を2本執筆し、双方ともに掲載された(ともに査読あり)。この点をフィールドワークが実施できなかったものを補ったと考えている。羽谷沙織(2021)「カンボジア古典舞踊ロバム・ボランの継承にみる芸道的徒弟教育―王立芸術大学とディアスポラ民間舞踊学校の比較から―」、『比較教育学研究』日本比較教育学会、第63号、134-155頁。羽谷沙織(2021)「フランス植民地期におけるカンボジア宮廷舞踊と舞踊継承の学校教育化」『アジア教育』日本アジア教育学会、第15号、9-21頁。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、調書において計画した研究計画に沿う形で研究を進める。コロナ感染状況をみながら、2022年度はアメリカ・カルフォルニア州ロングビーチに位置するKhmer Arts Academyてフィールドワークを実施し、創設者シャピーロの教育理念、入学要件、創作活動について調査をする。同時に、フィールドワークを実施しない期間においては2021年度同様に投稿論文の執筆にあたり、カンボジア古典舞踊ロバム・ボランとクメール系ディアスポラが設立したディアスポラ民間舞踊学校の動態を検討する論文を完成させたい。現在、取り掛かっている論文は「カンボジアにおける舞踊継承の学校教育化:古典舞踊ロバム・ボランにみる芸道的徒弟教育とその変容に関するエスノグラフィー」というものであり、その研究の目的は、カンボジア古典舞踊ロバム・ボランの継承において実践される芸道的徒弟教育が、カンボジアにおける政治体制の変化と近代的学校教育制度の拡大に伴ってどのように変化してきたのか、舞踊継承が学校という枠組みのなかで実践されるようになる「舞踊継承の学校教育化」 が、芸道的徒弟教育にどのような変容と継続をもたらしたのか、そして、そうした変化に人々はどのように向き合ってきたのかを明らかにすることである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ感染症拡大の恐れから、カンボジアおよびアメリカでのフィールドワークを実施することが叶わなかった。次年度は各国の感染状況や入国状況等を確認しつつ、安全に調査を実施する。次年度使用額が生じた理由は上記の要因によるものであり、カンボジアおよびアメリカの入国状況を確認しながら当初の研究計画に沿う形で着実に研究を進めたい。
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