研究課題/領域番号 |
21K00244
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤垣 裕子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50222261)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 科学者の社会的責任 / RRI / ELSI / 科学的助言 / 科学コミュニケーション |
研究実績の概要 |
科学者の社会的責任論の分野比較をおこなった。まず原子力技術分野であるが、巨大建築物と作動中の科学(例:福島原発の設置許可は1966年だが、その後プレートテクトニクス論、活断層についての調査、貞観地震の大津波発生分析などから、1990年代には地震による津波発生と原発への影響が予測可能となり、津波研究者は原子力関係者に警告を発した。このように、巨大建築物が建設された後にでてきた新しい科学的知見にどう対処するかが問題となる)が責任論の要となる。それに対し、医学・医療分野では、最新技術(再生医療や遺伝子組換え技術の応用)への倫理的側面、ゲノム情報の公正な利用のルール作り、臨床研究におけるエクイティの問題などが責任の要となる。人文・社会ではデータの公表問題、概念やデータの解釈に基づく誤解へも責任が挙げられる。最近のAI研究では、個人情報保護や、データ処理の仕組みへの外部からの異議申し立ての機構を明らかにすることが責任として議論されている。また、環境問題の1つであるマイクロプラスティックによる海洋汚染問題では、公衆への問題認知や科学コミュニケーションの課題が責任となっている。。 このように、戦後すぐの原爆開発における物理学者の社会的責任は「大量破壊兵器の使用阻止と世界平和の実現」であったわけであるが、現代の最先端科学の責任は、最先端科学の知見と現建築物とのずれ、最先端科学の知見と社会システム(倫理観や法をふくむ)とのずれが多く指摘されている。加えて、大量データを用いることによるプライバシーの保護、判断のブラックボックス化への警笛、などが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、分野ごとの科学者の社会的責任の論点を整理することである。より系統的に分類することが今後求められるが、知見は集積されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
分野ごとの責任論の違いを、より系統的に整理する軸を考案していくことが今後の研究推進の要となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本の科学者の社会的責任論においては物理学(とくに原子核物理学)者の寄与が突出しており、古典的責任論として物理学者の責任を思い起こす傾向がある。しかしこの傾向は世界一般の現象ではなく、実は日本に特異的なことであることが明確になった。そのため、科学者の社会的責任論の分野比較を行ううえで、当初予定していた方法論(例:物理学者の社会的責任シンポジウムのサーキュラーの分析)だけではなく、別の方法論も考える必要がでてきたため。 加えて、原子力技術・生命科学・AI分野・環境科学・人文社会分野といった分野の違いを系統的に分類する軸を考案するためには、当初予定していた方法論ではうまくいかないことが示唆されたため。
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