研究課題
研究計画調書に書いた研究目的の5つの問いの(1)「日本の物理学者の社会的責任論の特徴はどのようなものであったのか。物理学者の社会的責任論が化学者、生命科学者、情報科学といった他の分野に広がっていかなかったのは何故か」についての分析が進んだ。まず、日本の物理学者の社会的責任論は、原子力エネルギーを解放してしまったことへの罪の意識から生じたものである。戦後、核爆弾の製造競争に対し、パグウオッシュ会議などを通じて日本の物理学者は世界にむけて大きな活躍をした。それらの戦後の物理学者の活躍を受けて、1977年からは日本物理学会のなかで「物理学者の社会的責任」シンポジウムが開かれるようになった。このシンポジウムは物理学に限らず、広く科学と社会の課題(核兵器・原子力問題、大学院卒業生の就職問題を含む大学の教育や管理の問題、巨大科学など研究体制や社会のなかの科学研究の問題)を扱っている。それにもかかわらず、この責任論は化学者、生命科学者、情報科学者といった他の分野に広がっていかなかった。その理由として以下の3つが考えられる。第一に、本シンポジウムが他分野にも関心が広がっていたにもかかわらず他の学会にも影響力をもつものではなかったこと、第二に、本シンポジウムが2000年代に入って物理学会とのトラブルを抱えるようになって他の分野への影響どころではなくなったこと、第三にすでに研究成果が原爆等という形になって、それへの対処するために政治運動や市民運動にどう関与すべきかを問う姿勢と、生命科学のように研究成果がいままさに形づくられつつある時点で、それが社会に埋め込まれたときにどうなるかを想像する姿勢とでは、そもそも責任論の構築の仕方が異なることが示唆されるためである。また、昨年度おこなった分野比較研究の続きとして、環境問題の1つであるマイクロプラスティック問題の科学コミュニケーションも扱った。
2: おおむね順調に進展している
当初に立てた問いに対する回答は得られつつあるため。
分野ごとの責任論の違いを、より系統的に整理する軸を考察していくことが今後の研究の推進方策となる。
次年度(2024年度)に欧州で国際会議があり、そこでの情報収集のための旅費にあてるために、次年度使用額が生じている。したがって使用計画は、その旅費にあてることである。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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