研究課題/領域番号 |
21K00253
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研究機関 | 日本薬科大学 |
研究代表者 |
野澤 直美 日本薬科大学, 薬学部, 客員教授 (00599334)
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研究分担者 |
高野 文英 日本薬科大学, 薬学部, 教授 (20236251)
村橋 毅 日本薬科大学, 薬学部, 准教授 (70340445)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 古土法 / 培養法 / 硝石丘法 / 菌叢解析 / 硝化バクテリア / 硝酸イオン |
研究実績の概要 |
本研究は、主に3点を目的としている。①我が国では天然に産出しない硝石(歴史的には、塩硝、焔硝、煙硝ともいう)の3種の製造法(古土法、培養法、硝石丘法)がどのようにして伝搬され開発されてきたかを探る。②3種の製造法の硝石土の菌叢解析をし、硝化バクテリア等の実態を明らかにする。③硝石製造法を、中等教育や大学初年次に活かすことを目的とし、最終的には硝石製造法が、我が国の歴史科学技術として極めて評価の高い技術であったことを広く知らしめることにある。これまでの研究実績の2点の概要を示す。 ①については、史学的調査を行うとともに、これまで32軒の寺社、民家、養蚕農家(約40年前まで養蚕を営む)の床下に入り床下土を採取・分析を行い、居住環境により硝酸イオン濃度に顕著な差異を生ずることを明らかにした。また、かつての馬小屋や鶏小屋の硝酸イオン濃度の分析から硝石製造法の「培養法」は「古土法」の工夫と改善の中から、我が国において、独自に発展してきたものではないかと仮説を立てている。現在のところ「培養法」は文禄・慶長の2度にわたる朝鮮出兵の際の捕虜説が有力であるが、内外において「培養法」に関する確固たる資料は存在しない。 ②については、3種の硝石製造法に用いる土壌の菌叢解析により、硝石土の菌叢は、菌種、占有率、存在量においてActinobacteriaに偏りがあることが判明した。また、五箇山の「培養法」の土は200年経過しているにも関わらず畑土や硝石丘法の代替としてす用いた牛糞堆肥の菌叢パターンと類似していることも判明した。このことから「培養法」は中近世における類稀なバイオ技術であったと結論づけた。この内容については、薬史学会雑誌Vol.56,No.2.(2021年)に原著論文として発表するとともに、学会の公開講演会(2021.4.16実施)で共同研究者の高野が学会からの依頼により講演をし好評を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、目的の一つである菌叢解析は、硝石土である古刹の床下土、五箇山の江戸期の培養土、硝石丘法の代替としての牛糞堆肥及び無施肥の畑土を行い、菌叢の差異を探ることができた。その成果は薬史学会雑誌Vol.56,No.2.(2021年)に原著論文として発表することができた。さらに、菌叢解析については、サンプル数を増やし、アンモニア酸化古細菌の解析と比較等を行い、これまでの研究結果の深化を図る計画である。 硝石製造法の我が国への伝搬等のルーツに関わる取り組みでは、史学的資料の収集に努めると同時に、床下土の採取やかつて馬小屋や鶏小屋であった床土の採取は32軒に及んだ。これらの土壌の分析を簡易イオンメータ及びイオンクロマトを用いて分析を行い、当時の居住環境により硝酸イオン濃度に顕著な差異を生ずることが分った。時代の趨勢から床下土のない家屋が多くサンプリングには厳しいものがある。現在これらの分析結果から「培養法」は「古土法」の工夫と改善の中から、我が国において、独自に発展してきたものではないかと仮説を立てるに至っている。「古土法」の起源については、西欧では早くから、地下室の壁土や床土、家畜小屋の土から、「古土法」に類似した硝石製造法が発展していた。鉄砲伝来とともに硝石製造法が入ってきたかは明らかではないが、種子島には「塩硝」のつく地名があることから、妙薬(火薬)の和合の法が明らかになった直後には、硝石製造法が伝わっていたのではないかと推察している。これには毛利元就が銃砲に用いる火薬の調達で、部下に馬小屋土を求めている資料の存在がある。すでに鉄砲伝来後10年経たないうちに、硝石製造法が確立していたことになる。さらに史学的調査を継続しながらルーツを明らかにしたい。現在、歴史科学技術遺産として学校教育分野に位置付けるための、スモールスケール化に向けて準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進として次の8点の内容の研究を分担及び共同研究で展開する。 ①硝石土の菌叢解析を進め、硝石土に含まれるアンモニア酸化古細菌の解析と比較 ②硝化細菌のAMO発現について分子レベルでの解析と硝石土での比較 ③五箇山合掌造り床下遺構土の培養と菌の分離 ④国内外史料等の探索につとめ硝石製造法の我が国へのルーツの史学的調査 ⑤硝石製造にかかわる古文書に示される灰の実験科学的検証 ⑥中等教育及び大学初年次教育への硝石製造実験導入に向けてのスモールスケール化の検討 ⑦我が国の硝石製造法の科学史における歴史科学技術として文化的価値をどう広く知らしめるか これらの研究を推進するにあたっては、史学的に硝石製造の関与に関わる現地調査も視野に入れて進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度については、当初からコロナ禍のため遠隔地における現地調査が実施できず、史料調査にとどめた。また、菌叢解析を優先的に行った。2022年度については、新たな培養土等の菌叢解析、床下土のある建造物の過去の居住環境の調査・土壌分析を継続するとともに、「培養法」の痕跡の残る五箇山地方の実施調査・培養土のサンプリングを実施する。また、「古土法」の原点ともいえる種子島の現地調査等も実施する予定である。 硝石が天然に取れなかった我が国の硝石製造法は、江戸期における極めて評価の高い我が国固有の歴史科学技術である。これを中等教育の探究活動の教材として、また、大学初年次教育の実習への導入を進めるためのスモールスケール化に向けて教材開発を進める。
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