研究課題/領域番号 |
21K00255
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
夏目 賢一 金沢工業大学, 基礎教育部, 教授 (70449429)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日本工学会 / 土木学会 / 技術者倫理 / 社会的責任 / 職業倫理 / 時局対策 / 報国 / 国民防空 |
研究実績の概要 |
まず、これまでの研究成果を著書Japan's Engineering Ethics and Western Culture: Social Status, Democracy, and Economic Globalizationとして7月に出版した。本書は基本的に前年度までに脱稿してあったが、校正から出版に至る作業は本研究の進展により得られた知見を踏まえて進めた。 今年度は、この著書では不十分であった明治期から1950年代末までの分析について、とくに日本工学会、土木学会、電気学会、日本建築学会についての資料調査と分析を進めた。このうち、その時点での一般的な分析と考察について10月にThe Society for Ethics Across the Curriculumで発表し、さらに日本工学会『工学会誌』(当初は『工学叢誌』)と土木学会『土木学会誌』の分析結果を12月に科学技術社会論学会で発表した。これらでは、土木分野は公共事業を担うため国家を意識しやすいこと、時局に合わせた「報国」が技術者としての責任として問われたこと、日本の「技術者倫理」はあくまで米国がモデルであり、デモクラシーと親和的であったこと、戦後は国防という喫緊の課題が消えて「国家」という価値基準は縮小・後退したが、基底にある「祖国」に奉仕するという価値基準は継続していたことなどを確認した。その一方で、技術者の責任とされた「報国」がどれほど職業倫理たり得たのかという問題については引き続き分析を進めている。 また、研究のアウトリーチ活動の一環として、前述の著書の出版記念講演会を2022年3月に金沢工業大学科学技術応用倫理研究所の公開講演としておこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、本研究の基礎研究となる著書を予定通り7月に出版した。また、日本工学会『工学会誌』(当初は『工学叢誌』)と土木学会『土木学会誌』については金沢工業大学に創刊からの雑誌がほぼ揃っているため、まず今年度は、これらの資料調査をすべての研究対象期間にわたって進めた。これらの研究成果は10月のThe Society for Ethics Across the Curriculumと12月の科学技術社会論学会でそれぞれ発表した。 『工学会誌』は1921年に休刊となったが、日中戦争にともなう日本工学会の時局対策として機関紙『工学と工業』が1938年にあらためて創刊されている。この雑誌の調査を金沢大学附属図書館、国立国会図書館、京都大学附属図書館で進めた。当初は戦後のものから調査を進める予定であったが、古い時代から調査を進めた方が歴史的な事実関係は分析しやすい。コロナ感染症による出張制限が緩和されてきたことから、電気学会と日本建築学会の資料調査も金沢工業大学とともに複数図書館を利用して戦前期から網羅的に進めている。このうち、とくに時局対策としての国民防空に関する工学者の言説に注目して2022年5月の日本科学史学会で発表するための準備を進めた。 本研究では日本工学会に所属する主要12学会について網羅的な資料調査をおこなうことを目指している。3年間の研究期間の中で今年度に終了した調査が学会数からすると三分の一に達しておらず、これから研究発表も展開していくことを考えると進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
資料調査は今年度と同様の方針で進める。ただし、12学会の網羅的な調査を目標としているため、調査の速度を上げていく必要がある。2022年度は、日本工学会における戦前の時局対策の動向に関与した学会から調査を進める予定であり、これまで調査を進めてきた諸学会に加えて、衛生工業協会と照明学会がその対象となる。2022年度末までには少なくとも計8学会の資料調査を終える必要がある。 これに加えて、日本科学史学会をはじめとする関係学会で成果発表を進め、まとまった研究成果については論文として発表していく。国外の学会への現地参加は依然として危うい状況であるが、現地で発表することでオンラインでは得られにくいフィードバックが得られるため、可能な限り現地参加を検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症対策による出張制限があったために旅費の支出が予定よりさらに抑えられている。また、PCの購入については今年度がWindows 11の発表時期と重なったこともあり機種の選定ができないうちに今年度が終了した。PCについては次年度に適切に購入したい。
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