研究実績の概要 |
まず,前年度に進めた建築学会についての研究成果を論文として発表するための準備を進めた。建築学会の防空委員会における太平洋戦争前後でのリスク評価と対策を促した公的使命についての認識などの分析を通じて、工学系学協会の公共性理解の構造とその変化をかなり明らかにできた。さらに、昨年度に着手した照明学会についての分析を進めた。照明学会については、当初は灯火管制への対応に注目し、そのテーマでは十分に有意な知見を得られなかったが、その過程で同学会の明視特別委員会の活動に注目するようになった。日本の明視論は、米国ゼネラル・エレクトリック社のMatthew Luckieshらがscience of seeingを標榜して展開したbetter light, better sight運動に影響を受けたものであり、日本の照明工学関係者たちは、その米国の動向を商業的な高燭勧誘運動などと批判し、眼科の生理学的知見を踏まえて、日本人の身体的特徴に合わせた日本固有の明視論を再構成しようとした。この明視という照明工学の課題は、視力についての生理学・医学の科学的問題であるとともに主観的問題であり、見る対象のデザイン、さらには技術経営や国家政策も関連するような社会的問題でもあった。このような学際的課題についての社会構成プロセスを分析し、その暫定的な分析結果を学会発表するとともに、現在はそれを論文投稿するための準備を進めている。なお、これらと並行して、造船学会や工業化学会などの資料調査も進めたが、これらについては有意な分析結果を得られていない。また、外国旅費の大幅な高騰により、昨年度の国際学会発表のために今年度予算を前払い請求したため、今年度は国際学会での発表は実現できなかった。しかし、上記のように本研究課題の成果発表は今後も展開する予定であり、国際的な発信についても適宜進めていきたい。
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