研究課題/領域番号 |
21K00263
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡邊 英理 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (50633567)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 近現代日本語文学 / 「戦後文学」 / (再)開発文学 / 中上健次 / 石牟礼道子 / 脱人間主義 |
研究実績の概要 |
二年目にあたる今年度は、中上健次の「(再)開発文学」研究の成果を単行本化し出版した(『中上健次論』インスクリプト、2022年7月)。また今年度は、中上健次の「(再)開発文学」の思想をめぐって、哲学分野との対話を積極的に行った。まず、脱人間主義の思想について講演や発表を行ない(同年7月立命館大学金曜講座、同年12月國學院大学「哲学と文学」研究会)、哲学者の竹峰義和氏らと対話し、開発主義とその延長線上にある核開発をめぐって哲学者・柿木伸之氏と対話した(同年9月「路を「仮設」する」@本のあるところajiro)。また、生前の中上に随伴し、彼の「交換」概念に多大な触発をもたらした批評家・哲学者の柄谷行人の『交換様式と力』について考察し(『文學界』2023年2月号)、現代中国の開発主義における「公共性」論を寄稿した(『文學界』2022年9月号)。さらに中上の「(再)開発文学」の可能性に関しても、作家であり中上文学の現代における最良の批評家でもある奥泉光氏、いとうせいこう氏と鼎談を行なった。さらに中上文学を新たな映像世界に昇華した青山真治映画について単行本に寄稿した(『青山真治、アンフィニッシュドワークス』河出書房、2023年3月)。企業誘致による開発、それがもたらす生命の破壊としての水俣病を描いた石牟礼道子の「(再)開発文学」研究を論文等として発表した(『語文』2022年6月、「日本文学」2023年3月号)。また開発と差別の問題系を発展させ、「差別(論)と文学」に関して発表を行なった(日本社会文学会、2022年10月)。開発は具体的な場所を伴い実践される。小説における「場所」の重要性を発見し、中上とともに同時代に「小さな場所」をめぐる文学を実践したのが大江健三郎である。大江の逝去にあたり、取材に応じ大江文学の意義に関する談話を寄せた「大江健三郎の時代」が共同通信より配信された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中上健次の「(再)開発文学」研究を単行本として刊行できた。
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今後の研究の推進方策 |
中上健次と石牟礼道子の「(再)開発文学」研究を、さらに拡大深化させる。中上の「(再)開発文学」の重要な随伴者であった大江健三郎の文学について、同文学と中上文学の関係性について考察する。また、「(再)開発文学」の現代文学における展開について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の論文化や発表は予定通りに進んでいるが、コロナ禍で国際学会などの海外出張が不可能となった。次年度以降に繰り越す予定である。
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