研究課題/領域番号 |
21K00263
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡邊 英理 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (50633567)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | (再)開発 / 中上健次 / 石牟礼道子 / 脱人間主義 / モダニズム / 世界文学 / メロドラマ |
研究実績の概要 |
研究3年目の今年度は、大きく三つの方向性で研究を進めた。 第一の方向性は、脱人間主義という視座からの「(再)開発文学」の分析・考察である。中上健次『千年の愉楽』、石牟礼道子の『椿の海の記』、大江健三郎「「罪のゆるし」の青草」『M/Tと森のフシギの物語』を対象に考察を進め、人間による人間の支配と同時に、人間による非人間への支配に抗する批評性を析出した。その成果は、『ユリイカ』『立命館 言語文化研究』等で活字化し発表した。また、その成果を国際シンポジウム「モダニズムの水平線――世界文学シンポジウム」@立命館大学で公表した。また、中上文学の研究成果については、中上を同時代的に知る作家・中沢けい氏に、パゾリーニとの比較をめぐって四方田犬彦氏にそれぞれ公開インタビューをし、石牟礼文学研究の成果については、作家・町田康氏、作家・米本浩二氏との公開鼎談をし、広く社会に還元した。第二の方向性は、地球化と経済化が進む「現代」における「(再)開発文学」の検討である。この観点から、中上の後期小説『軽蔑』、その先駆としての『鳳仙花』を検討し、「メロドラマ的想像力」を抽出し、その射程を分析した。第三の方向性は、「(再)開発文学」の現在形の分析・考察である。戦争と植民地主義という開発主義や、現代日本の排外主義へ批評的に抗する温又柔『魯肉飯のさえずり』(中公文庫)に解説を寄稿した。共同通信・文芸時評「いま、文学の場所へ」、『文學界』新人小説月評などの批評の連載において、芥川賞受賞作、九段理江『東京都同情塔』をはじめとする、現代の「(再)開発文学」について考察し、また、開発下にある土地に着目した文学作品を多数発表している作家・乗代雄介氏への公開インタビューを行うアウトリーチ活動なども行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画していた以下の三つの考察を進めることができたため、進捗状況は概ね順調と言える。 1、中上健次、石牟礼道子の文学を対象に脱人間主義という視座からの「(再)開発文学」の分析・考察 2、中上健次の文学を対象に地球化と経済化が進む「現代」における「(再)開発文学」の検討 3、現代文学を対象に「(再)開発文学」の現在形の分析・考察
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今後の研究の推進方策 |
研究4年目の来年度は、石牟礼道子の「(再)開発文学」をジェンダーの観点から考察し、フェミニズム批評としての内実を検討することを軸に研究を行っていく。この考察は、九州筑豊のサークル誌『サークル村』に同時期に参加していた森崎和江・中村きい子らとの比較対照を行いながら進める。そのため、森崎和江や中村きい子の思想文学についての研究も同時並行的に行う予定である。 また、今年度、主に中上健次の文学を対象に行った、地球化と経済化が進む「現代」における「(再)開発文学」の検討も継続する。さらに、同じく今年度行った現代文学を対象とする「(再)開発文学」の現在形の分析と考察も続けていく。なお、中上健次を対象とする研究の成果については、すでに、学術書として単行本にまとめたが、広く社会に還元することも試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画当初、移動して対面参加を予定していた学会やWS、研究会のうち、いくつかが、オンライン参加が可能となった。学務の日程の都合上、オンライン参加としたことにより、予定していた旅費等が不要となったため、次年度使用が生じた。その一方で、石牟礼道子のジェンダー的観点からの考察は、石牟礼単独の調査考察にとどまらず、森崎和江中村きい子らとの比較対照が必要であることも判明した。次年度使用額は、この新たに必要となった森崎和江中村きい子らの調査・研究の費用として使用する。
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