研究課題/領域番号 |
21K00278
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
大谷 俊太 京都女子大学, 文学部, 教授 (60185296)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 前久 / 信尹 / 信尋 / 尚嗣 / 聞書 / 覚書 |
研究実績の概要 |
近衛信尹・信尋を中心に、またその前後の前久・尚嗣についても一部、自筆の聞書・覚書ほか関連資料の整理・翻刻・読解・考察を行なった。(本年度は可能であれば陽明文庫に出張の予定であったが、コロナ禍の継続により閲覧が叶わず、これまでに調査・収集済みの資料をもとに研究を進め、併せて他機関所蔵の関連資料の調査・収集を行った。) 上記閲覧・収集を行った資料の解読・分析を行い、調査記録・翻字をもとにデータ入力を行った。さらに、各資料の内容の記述・翻字について、複写資料ほかと突き合わせ確認する作業を継続して行った。 覚書については、信尋筆の「歌合難陳断片」が寛永十六年(1639年)十月五日、後水尾院仙洞御所で行われた三十六番歌合における難陳の詞に関わるものであることを確認した。当歌合は当初難陳が行われていたものが、後に判詞のみが記し留められたという経緯を持つ。難陳の実際を示す資料の出現により、歌合の実態について、引いては宮廷最後の歌合となった本歌合の意義についてのより詳細な考察が可能となった。 連歌師の講釈を書き留めた和歌注釈書である京都女子大学図書館谷山文庫蔵「にはたづみ」の解題と翻刻を公表した。本書は連歌師の講釈をもとにした注釈であり、連歌の実作に対応した証歌の注釈であることを考察した。陽明文庫蔵の聞書類の特徴を考える際の参考資料として大いに有用である。 信尹が連衆として参加する和漢聯句千句三種を含む『曼殊院蔵和漢聯句作品集成』を刊行した(京都大学和漢聯句研究会編)。上記の漢籍聞書や覚書が陽明文庫に残るのは、和漢聯句を詠むための修練の結果であり、聞書・覚書類と実際の作品とを突き合わせて考察するための基礎資料が調った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
信尹の聞書については、天正九年六月の林宗二による古文孝経の講釈聞書から慶長十八年四月のものかと思われる晩年の詠歌大概聞書に至るまでの聞書類を確認した。ただし、聞書は当座の速筆による簡略なもので文字の読解自体が容易ではないものがある。また、何の講釈か、講釈の年月日と行われた場所、講釈者名などは記されていないのが常である。三躰詩、古文真宝後集の講釈聞書であると判明したものもあるが、未だ特定にいたっていないものがある。まずは翻字を行い、可能な限りそれらの特定に努めている。 信尋の聞書については、伊勢物語聞書(寛永二年八月・同九月・同十月~十一月)、源氏物語聞書(元和七年二月~元和九年四月)、百人一首聞書(慶安二年三月)、詠歌大概聞書(慶長十八年十一月)、琵琶行聞書、中庸聞書(寛永八年閏十月~寛永十一年九月)、古文真宝後集聞書(慶長十八年十一月)が一括して残されており、全てを翻字し解読を行った。その外にも、周易聞書、職原抄聞書、日本紀聞書が確認でき、適宜解読を進めている。中でも、元和七年からの源氏物語聞書は女院御所における中院通村による講釈の聞書であり、信尋はほぼ毎回出席しており、桐壺の巻から夢浮橋に至るまで四分冊に亘る当座聞書が残されている。この講釈は『泰重卿記』などにより他の聴聞者が知られ、中和門院・智仁親王・好仁親王・尊純親王・阿野実顕・高倉永慶・水無瀬兼俊・平松時興ら親王・廷臣が多く出席した大規模な講釈であったことがわかる。元和七年二月に始まり、元和八年四月に一旦途切れ、元和九年四月から再開したことがわかる。 信尹・信尋以外では、前久による「伊呂波聞書」、尚嗣による「古文孝経聞書」「中庸聞書」を確認し翻字を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度こそ実際に陽明文庫に出張し、資料の閲覧・調査・翻字を行うことができるよう期待する。上記調査により閲覧・収集した資料を解読し、必要に応じて翻字を行う作業を継続する。 同時に、公家日記などの同時代史料を調査し、講釈の行われた日時や場所、講釈者と主催者・聴聞者を確定させる。その上で、近衛家以外の人により著わされた他の注釈書・聞書など関係資料を探索し収集して比較検討を行う。必要に応じて京都大学附属図書館・京都大学総合博物館・宮内庁書陵部(東山御文庫資料も含む)・国立歴史民俗博物館・国文学研究資料館などに出張あるいは複写依頼を行う。 元和七年から九年にかけての信尋の源氏物語講釈については、同席の高倉永慶による聞書の一部伝存が報告されており、その他の聴聞者による聞書の探索も行いつつ、今後この講釈の実態について考察を続ける必要がある。 さらに本年度は、尚嗣の自筆聞書類についての調査にも重きを置く。尚嗣の手になるものは分量が多く、全てを読解・翻字することは限られた時間内では困難であるが、尚嗣には『尚嗣公記』が伝わっており、講釈日時・講釈者・聴聞者の特定ができる可能性は比較的高いと思われる。また、一部については先行研究も備わる。それらを頼りに、尚嗣の聞書・覚書が作成された現場に即しての解読を行なうことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の継続により、陽明文庫をはじめ宮内庁書陵部などへの出張を行わなかったための旅費、および出張に際して使用する予定であったカメラの購入を控えたこと、また、出張を行えず、実際に資料の閲覧・調査を行った上で複写による収集を行うか否かを決定するはずの判断ができなかったため、収集を保留した分の複写費を次年度使用に回した。 今年度は機会を窺いつつも出張を行ない、調査・収集を行う費用とする。
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