研究課題/領域番号 |
21K00290
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
堀 啓子 東海大学, 文化社会学部, 教授 (60408052)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | dime novels / cheap editions / 菊池幽芳 / 尾崎紅葉 |
研究実績の概要 |
本研究は大きく二つの段階を以て進めるものとしている。その一つは、かつてほとんど顧みられることのなかったdime novelsに着目し、その潜在的魅力を看取した日本の文士たちがそれらを的確に優れた作品へと変容させていった過程と技法を明らかにすることにある。もう一つは、dime novelsを下敷きとして生み出された明治・大正期の作品の位置づけ及びそれらの作品の後代への影響を日本の文学史の中で整理することである。 研究期間初年度にあたる本年は、予定している研究計画の第一段階に着手した。そして明治から大正期にかけて活躍した日本の文士の中で英語に堪能な人物を選びリスト化した。続いて、彼らの日記や彼らに関する回顧録などを調査し、彼らの中からdime novelsを入手し得る環境にあったと推定される文士を絞り込んだ。そのうえでじっさいに蔵書や手沢本の存在が確認されている文士についての情報を整理した。 その結果、『大阪毎日新聞』で一世を風靡した菊池幽芳が浮上している。そのためまず幽芳を調査の対象とし、幽芳の各長編作品の内容の把握およびその執筆背景についての確認を行った。そしてこの研究過程で幽芳作品から特にdime novels的と思われる構想の断片を抽出した。具体的には登場人物の宗教観や思想、特にキリスト教精神に基づいた博愛精神などである。 そしてこれらの要素に合致する特徴を持つdime novelsを探し当て、比較することを次年度以降の研究に盛り込むこととし、その準備を進めた。 また、廉価版洋書小説のひとつであるCharlotte M. Brame 作のDora Thorne の翻訳を続けており、次年度にもつなげる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者は研究目的と研究計画に照らし、おおむね順調に研究が進展していると認識している。この判断基準は、以下に挙げる三つの点に関する自己点検に拠るものとする。 第一に、上記の概要の項目でも言及したが、明治時代から大正時代において名を挙げた文士たちのうち、英語に堪能な人物をリスト化できたことである。 第二に、そうした文士たちの記録、たとえば日記や回顧録、あるいは他の文士たちの言説などを整理することで、とりわけdime novelsを入手し得る環境にあった人物を大枠で絞り込むことができたことである。 最後に、じっさいに彼らのそうした蔵書や手沢本をある程度確認し得たことである。ただ感染症の関係で、現地調査には限界があったため、現時点では未確認のものもあるが、これは次年度以降の確認案件としたい。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、研究の次の段階として、dime novelsを下敷きとして生み出された明治・大正期の作品の位置づけ及びその後代への影響を日本の文学史の中で整理することに調査過程を進める。 その際、例えば今年度に着目した菊池幽芳についても、彼の作品の多くが新聞小説であったことを念頭に研究を進めたい。すなわち、日々の新聞に連載することによる、執筆速度や読者からの反響というプレッシャーの中で、dime novelsを下敷きとする翻案、もしくは翻訳が、作者自身にどのような影響を与えたかを分析し、dime novelsが下敷きとしてどのように〈機能〉したかの考察も含め、研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は感染症の蔓延防止の観点から、出張による現地調査などが難しく、当初予定しておりました旅費や、その場で要されることを想定していた文献複写費や資料購入費などの支出が見込めなかったことが理由です。 次年度以降、本来予定していた現地調査を実施することにより、予定していた支出額を充てることを計画に入れ直しております。
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備考 |
日比谷図書文化館 日比谷カレッジ文学講座「文豪たちの素顔――明治の名作はいかに生み出されたのか?(全2回)」https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20210902-post_279/
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