研究期間を通じて行った研究成果は以下の通りである。2023年度を「研究の完成期」と位置づけた研究計画にしたがって、本研究課題の仕上げと今後の研究の展開に向けた土台作りに注力した。 (1)アジア太平洋戦争末期から1950年代前半にかけての文学テクストの中で日本の「敗戦」がどのように想像され、言語化され、受容されたかを辿り直す研究の成果として、単著『「敗け方」の問題 戦後文学・戦後思想の原風景』(有志舎)を刊行した。また、文学・映画・ノンフィクションの各ジャンルにおいて、1945年7月26日のポツダム宣言発出から9月2日の降伏文書調印に至る政治過程がどのように描かれたかについて調査を行い、その成果を公開シンポジウムで報告した。 (2)1960年代を「負け方」の表象の再編期と位置づけ、その画期となったテクストとして半藤一利『日本のいちばん長い日』とそのアダプテーションに注目、昭和天皇をめぐる表現と同時代の歴史研究・歴史評論との関わりについて分析を進めた。関連して、2015年にリメイクされた同題の映画が、1990年代以降の天皇制研究の進展を参照しつつ、昭和天皇を政治的な主体として捉え直す企てであったことを明らかにした。 (3)新型コロナウィルスによる行動制限の緩和を受けて、様々な立場で「戦争と平和」をめぐる歴史実践を展開している博物館・資料館等を訪問、現在の日本社会と過去の戦争との関わりをどう表現しているかについて調査を進めた。合わせて、帝国日本の戦争と批判的に対峙する現代の文学作品やアート・パフォーマンスについて調査と分析を進めた。ここで行った調査を土台に、問題関心を共有する複数の研究者と新たな共同研究のプロジェクトに着手する予定である。
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