研究課題/領域番号 |
21K00296
|
研究機関 | 帝塚山学院大学 |
研究代表者 |
福島 理子 帝塚山学院大学, 人間科学部, 教授 (40309365)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 大塩平八郎 / 洗心洞詩文 / 変化朝顔 |
研究実績の概要 |
本年度は、①『洗心洞詩文』所収詩と未収録詩の注釈のブラッシュアップ、②新資料の収集、③刊本所収詩と新資料の注釈から発展させた大塩の詩風と思想の理解、④大塩が目の当たりにした化政および天保期の文化と権力の問題等に進展を見た。 ①については、注釈を語釈のレベルから、大塩の思想や時代背景と結びつける段階に至った。②は、大阪歴史博物館に寄託されている屏風(個人蔵)所載の大塩自筆詩の調査から知り得たことを講演会において発表(2022年12月10日「文人 大塩平八郎」於2022年度関西大学東京泊園塾「大塩平八郎を問う~与力と文人の『反乱』~)、また、2023年2月には新出詩を含む大塩七言詩屏風を発見、購入。その成果を講演会において発表し(2023年3月25日「詩に遊ぶ大塩ー新出資料が教えてくれること」於大塩事件研究会「大塩中斎忌記念行事」)、その内容が読売新聞に掲載された(2023年4月29日『讀賣新聞』朝刊「大塩平八郎漢詩の掛け軸 京都で発見」)。またその詩の解釈については、雑誌『混沌』(混沌会刊)に掲載される(投稿済み、現在編集中、2023年上半期中に刊行予定)。 ③に関しては、まず、大塩には河畔で賦した詩が多く、その描き方には岡田半江ら大坂の文人の影響があるが、さらに自らを屈原と重ね合わせていることを証して、前述の講演「文人 大塩平八郎」で発表した。さらに④については、大塩の朝顔を詠った詩から、それが当時の変化朝顔栽培のブームを背景にしたものであること、その栽培に大阪の富豪殿村茂済が関わっていたこと、さらに茂済、村田春門、水野忠邦との関わりに説き及び、文雅と世渡りが絡み合った当時の状況を描き出した。この考察は論文「朝顔好みと朝顔嫌い―殿村平右衛門と大塩平八郎―」にまとめた(『上方文藝研究』20号、上方文藝研究の会、2023年6月頃刊行予定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、COVID-19の流行が続いていたことにより、研究目的・方法に掲げていた刊本『洗心洞詩文』より逸した詩文の捜索、収集がかなわなかった。しかし、本年度は、新たな資料を得たことによって、刊本のみに拠っていたのでは気づき得なかった大塩の文人としてのありよう、人間関係、創作の背景に考察を及ぼし得た。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは、『洗心洞詩文』の注釈をまとめて発表し、評価を得ることによって、漏れや解釈の不安定な部分を是正して行きたい。 また、大塩平八郎と同時代の詩人たちに関する論考を体系的にまとめていくことをめざし、足りない部分の考察を加えて行きたい。特に考える必要があるのは、刊本『洗心洞詩文』の制作過程である。次に、広瀬旭荘、頼山陽、田能村竹田、篠崎小竹と大塩との関係については既に論じたことがあるが、それぞれより深めて行きたい点が残る。さらに、宋学や陽明学派の詩文との関係を今一度見直していく必要がある。これまでは思想に引きずられないよう、詩として語法と典故を重視した詠みを心がけてきたが、最終的にはやはり陽明学者としての大塩の真意を測っていかなければならないからである。 上記のとおり、大塩の詩の読みと、詩をもとにした論を併せ、文人としての大塩の本質に迫りたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、新出資料を発見するなど、単年度で見ると予定通り助成金を使用できたが、2021年度からの繰り越し分については使用できなかった部分がある。それには、海外での発表ができなかったことが大きい。2023年度は、海外で催される学会での発表を予定している。また、新資料の捜索は引き続き行う。
|