研究課題/領域番号 |
21K00310
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小川 剛生 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30295117)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 菟玖波集 / 連歌寄合 / 勅撰和歌集 / 南北朝時代 / 二条良基 / 素眼 / 小槻量実 |
研究実績の概要 |
◎急雨亭文庫蔵本(渡辺本)の調査と撮影。金子金治郎氏が『菟玖波集の研究』において、広島大学蔵本とともに、最善の伝本としていた「渡辺本」の所在を突き止めることができた。さらに所蔵者のご許可をいただいて、2021年7月13・14日、現在寄託されている所蔵機関を訪問し、詳しく当該本の書誌を調査し、全丁を撮影することができた。金子氏の調査以来、ほぼ60年ぶりとなる。改めて急雨亭本の本文を校合した結果、広島大学本に対して、四箇所に脱落があるものの、むろし誤写が少なく、本文は善良である。広島大学本を上回る箇所も少なくなく、極めて貴重な伝本であることが確認できた。 ◎古写本の断簡の研究。古写本が乏しいので、いくつかの所蔵機関で写本を渉猟した、今年は天理図書館綿屋文庫蔵本の写真を入手し、校合した。室町中期頃書写の列帖装で、破損がひどい零本で、巻4秋上・巻5秋下・巻6冬の三巻のうち、とびとびに109句ほどが伝わるだけで、残存の本文は誤写も多いが、原本に近い伝素眼筆本と同系統と考えられる。巻1から10までは伝素眼筆本の断簡がまったく残らないので、それだけでも貴重である。 ◎小槻量実句集の研究。菟玖波集の撰集資料となった小槻量実句集を研究した。早稲田大学図書館で原本を閲覧調査し、その上で論文を執筆した。先行研究は金子金治郎の研究が唯一であったが、そこで疑問とされた点を考察した上で、官務小槻(壬生)家と良基とのつながり、またこの句集の伝来についても新しく論じた。成果は論文を執筆して公刊した。 ◎二条良基周辺の歌人の研究。良基と交流があり、かつ菟玖波集の有力作者であり、当代の連歌史にも影響を与えた歌人についての研究を進めた。冷泉為相、兼好、頓阿ら和歌四天王の、詠草・定数歌に関する論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
注釈の礎稿執筆に取り組んでいる。底本は急雨亭文庫本とし、広大本で校合し、適宜『校本つくば集新釈』の校異を参照して本文を作成している。詞書・前句・作者・付句・左注を単位とする。そこで▼句意、□寄合語、○語釈、■付合の解説に分けて、それぞれ簡潔に説明することにしている。作句の背景になお詳細な説明が必要である場合は補注を儲けた。また句意に関係する本文異同、句が他の文献に見える場合もそのことを注記した。現在、巻5・秋下までの礎稿が完成している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の立てた方針に大きな変更はない。最初の目的である、菟玖波集の注釈については、急雨亭文庫本(渡辺本)を予想外に早く調査することができ、かつ善本であることも確認できたので、これを底本とする方針が定まった。今後ともこれによって、まずは前半10巻の注釈の礎稿をできるだけ早くに完成させる。綿屋文庫本は校勘と注釈に生かしていく。
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