研究課題/領域番号 |
21K00310
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小川 剛生 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30295117)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 連歌集 / 二条良基 / 付合 / 寄合 / 准勅撰集 / 南北朝時代 |
研究実績の概要 |
菟玖波集の注釈刊行のために努力を傾けた。三弥井書店を出版社として、何度か体裁・書式についての協議を重ねて、2023年4月に原稿を入稿し、浅井美峰を共著者として、三度の校正を経て、2023年10月に注釈書を刊行することができた。三弥井書店『菟玖波集 上』である。この冊には解題、真名序・仮名序・巻1春上から巻11恋下まで、1023句を収める。全体のちょうど半分である。福井久蔵が『校本菟玖波集新釈』を刊行して以来、約90年ぶりの全注釈となった。 本書の特色は以下の通りである。まず、古態を留める優れた本文を探究した結果、二年前に大分県立歴史博物館寄託、急雨亭文庫本を詳しく調査し撮影した。今回、この本を底本に採用した。この急雨亭文庫本は、渡辺綱峰(連歌師としては里村玄碩)の筆にかかる。書写は近世であるが、菟玖波集の原本とされる素眼筆本の本文を伝える、貴重な写本である。そして、これを底本とした活字本は初めてであり、学術的な意義がある。急雨亭文庫本の脱落・不審箇所は、他の写本によって校訂した。 ついで、この本文をもとに注釈を施した。連歌集の解読は、前句に対する付合を解明することであるので、語釈や句意だけではなく、寄合語、本歌本説などの付合について詳しく解説した。注釈は頭注形式とし、版面のレイアウトに工夫を凝らした。頭注で尽くせない情報は、補注で詳しく述べた。 関連して、菟玖波集は連歌集であるが、延文2年(1357)、後光厳天皇の綸旨によって勅撰和歌集に准じられた。そのことが連歌の地位向上に与えた影響は大きいので、中世の勅撰和歌集の成立と評価についての研究を進めた。そのほかに、南北朝時代の連歌に深く関係する今川了俊とその周辺について調査を進め、論文を刊行し、口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の目標である、菟玖波集の全注釈の編纂・出版について、三弥井書店より「中世の文学」のシリーズとして2分冊での計画を定め、そして全体の半分を収める上冊をこの年度に刊行することができた。また関係する連歌作品・連歌作者についての論文執筆・口頭発表もいくつか行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
菟玖波集全注釈として、三弥井書店より、「中世の文学」のシリーズより、下冊を刊行する。そのための原稿がおおよそ半分は出来ているので、今年度をかけて完成に漕ぎ着け、年度末の入稿を目指したい。そして25年度のうちの出版を目指す予定である。また関係する歌人・連歌作者の研究を行う。それから菟玖波集の准勅撰集としての意義についても研究を進め、同時代の勅撰和歌集との関係、また形式・内容を比較して考察する。
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