研究課題/領域番号 |
21K00314
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 進化論 / 退化論 / 物語的主人公 / 小説的主人公 / 速さ / 象徴界 / 視線恐怖症 / 資本主義 |
研究成果の概要 |
進化論はその趣旨から言うなら「変化論」でもよいはずだが、進化論と称されることで政治的意味を帯びることになった。その極端な例が社会進化論であり、それらの反動としての退化論である。一方、進化論が経済と結びついたのが資本主義であり、新しいモノはほぼ無前提でよいモノとされた。 資本主義体制下では「できるだけ多くのモノを、できるだけ遠くに、できるだけ速く」運ぶことが求められる。小説の主人公の型としては移動する「物語的主人公」がふさわしいが、たとえば漱石文学では移動しない「小説の主人公」が多く登場する。漱石文学の主人公は速さへの恐れを抱いている。速さに対する感性が進化論と退化論の表象と考えることができる。
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自由記述の分野 |
日本近代文学
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
漱石文学の登場人物は「速度」を恐れている。これは思想ではなく、感性の表象である。近代は「できるだけ多くのモノを、できるだけ遠くに、できるだけ早く運ぶこと」を目標にしてきた。現代はこれに「情報」が加わり、ポスト現代はこれにさらに感染症が加わるのだろうか。私たちはまさに感染症によって退化論的存在であることを強いられている。速度を恐れるのはノルダウのいう「疲労」に相当する。退化論的人物である『明暗』の津田由雄はポスト現代を生きる人間かもしれない。津田は単なる俗物ではなく「新しい人間」である。文化の中に散乱している退化論の表象を意味づけて、進化の裏側にある退化の側からポスト現代の姿を明らかにした。
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