研究課題/領域番号 |
21K00320
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研究機関 | 佐賀女子短期大学 |
研究代表者 |
長澤 雅春 佐賀女子短期大学, その他部局等, 教授 (00310920)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 朝鮮近代文学 / 日本語文学 / 転向 / 日本近代文学 / 皇民化政策 / 朝鮮教育 / 植民地政策 / 朝鮮総督府 |
研究実績の概要 |
本研究は、朝鮮文学における〈転向〉の意味と<日本語文学>の生成、そしてそれに至る日本近代文学及び日本文壇の影響について明らかにしようとするものである。 日本近代文学の模倣から始まった朝鮮近代文学(以後、朝鮮文学)は、日本のプロレタリア文学運動と連帯して1920年代半ばより傾向派文学、労働文学、農民文学理論を展開し、朝鮮におけるプロレタリア芸術活動を文芸誌の発刊や映画製作によって成熟を見せていったが、1930年代以後の朝鮮教育における日本語の強要、時局統制と創始改名の強制が強まるにつれ、朴英熙や金龍済、白鐡、林和といったプロレタリア芸術活動の中心的な担い手たちは、いわゆる〈転向者〉となって、時局統制にかなった朝鮮文壇や映画製作を担い手となっていった。 そのため、令和3年度は、朝鮮近代文学の動向を知る基礎調査として、長澤の手元にある資料を用い、1930(昭和5)年1月~9月までに朝鮮において刊行された新聞(『朝鮮日報』『中外日報』)と雑誌に掲載された文章から、文学・芸術活動に関連する批評・エッセイ・論文を抽出した。 抽出にあたって参考としたものは『1930年代韓国文芸批評資料集』(全20巻 啓明文化社 1989刊)、権寧珉編『韓国現代文学批評史』(全6巻、檀大出版部1982年刊)で、原本からは『別乾坤』(1930.8-1933.8)、『大潮』(1930.4-1930.8)、『学之光』(1914-1930)、『新生』(1929-1946)を参照とし、この作業を「朝鮮近代文芸批評作品リスト(1)-1930.1~1930.9-/A List of 1930’s Modern Literary Criticism Works (1)」として『佐賀女子短期大学研究紀要 第56集』(2022.3)に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、朝鮮近代文学の日本語文学への傾斜以前の様相を明らかにしようと試み、そのための資料を手元にある資料を中心に調査・整理し、おおよその推測結果が出たと考えている。調査はまだ継続していくが、朝鮮近代文学の動向については長澤個人の調査・分析だけでは困難も生じることから、令和3年夏には、コロナ禍ではありつつ、韓国の東義大学東アジア研究所と本研究テーマについて研究協定を結び、連携することがすることができた。 また、朝鮮総督府による国語政策を知る上でも朝鮮教育の一次資料となる『文教の朝鮮』(1925.9~1945.1)が影印刊行されているうち、1931年分までの復刻本を購入できたため(終刊までは令和4年度科研費で購入予定)、国語(日本語)教育の時系列的動向を分析することができる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に研究協定を締結した韓国の東義大学東アジア研究所と、1930年代朝鮮文学の動向について共同研究を進めていくことにする。この時期における朝鮮側の文学・芸術分野での個人活動と個人思想の展開を考察することはもちろんだが、植民地朝鮮と日本の時代的な動向と交差を、日本文学の側からも着目したい。そのためには、『京城日報』が京城において何度か行っている朝鮮文壇と日本文壇との座談会における日本人作家の発言、朝鮮人作家の発言を考察する。この座談会が、日本文学化を目指す朝鮮文学の思想動向を表していると考えられるからである。 1940年代崔載瑞主宰による『国民文学』が諺文と和語による刊行を試みたものの日本語のみの刊行となったいきさつは、激動の1930年代朝鮮文学を経たためだと考えられるため、30年代から40年代朝鮮文学にゆきつく中の<転向>について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
影印復刻による『文教の朝鮮』(全87巻)のセット価格が約90万円と高額なため、当該年度での購入ができなかった。そのため、当該年度予算を全額使用するのではなく、令和3年度は1巻~56巻までを割引購入(600,200円)し、残り30巻分(約30万円)を令和4年度科研費予算を使用することにしたため。
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