研究課題/領域番号 |
21K00326
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
緑川 英樹 京都大学, 文学研究科, 教授 (30382245)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 黄庭堅 / 任淵 / 山谷抄 / 黄氏口義 / 五山禅林 |
研究実績の概要 |
本研究は「江西詩派」の創始者として知られる中国北宋後期の詩人、黄庭堅(1045-1105、字魯直、号山谷道人)の詩集と注釈について、その特徴と方法および文献価値や後世への影響を考察するものである。任淵・史容・史季温ら宋人の旧注のみならず、万里集九・月舟寿桂・一韓智コウなど中世日本の五山禅林で作られた抄物も積極的に活用し、黄庭堅詩の注釈をめぐる新たな知見を獲得することをめざす。 事業期間4年の3年目にあたる本年度は、過去2年に引き続き、研究の基盤を鞏固にするための作業として黄庭堅集およびその注釈に対する精読・分析を進め、合計180首の詩の訳注稿を完成させた。 本年度に公表した研究成果は、京都大学黄氏口義研究会編『抄物を読む――『黄氏口義』提要と注釈――』(臨川書店、2024年2月)である。本書全体の編集を担当したほか、第一部「『黄氏口義』提要」のうち、第二章「『黄氏口義』の原典」と第五章「『黄氏口義』に関わる漢籍」の二章を執筆した。特に「『黄氏口義』の原典」においては、抄物資料を用いて山谷詩を読もうとする初学者に参考となる読解のポイントを示すとともに、黄庭堅集のテキストと注釈について、「山谷生前の自編詩集」「「詩文合集」本」「「詩注」本」「その他」の四方面から詳述した。 また第四節「五山禅林で読まれた黄庭堅集」は、抄物の講抄者たちが『山谷黄先生大全詩註』(古本小板)と『山谷詩集注』(増注大板)のどちらのテキストを底本としたか、それを判定する基準はどこにあるか、『黄氏口義』の具体的な記述に即して解明したものであり、二〇二二年度公表の論文「五山僧が読んだ黄庭堅集――万里集九『帳中香』を手がかりに――」の内容とも相補い合う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が最終的な目標とする黄庭堅詩訳注の公刊に向けて、すでに詩180首の検討と原稿執筆を完了しており、研究基盤の強化は順調である。特筆すべきは、そのうちの2割近くは既成の日本語訳注が存在しないという点である。また、室町時代後期に作られた山谷詩の抄物に関して、過去2年間は万里集九『帳中香』に対する研究が主であったが、本年度は日本語学・日本文学・日本漢学・中国哲学など異分野の研究者との学際的交流を進めつつ、林宗二『黄氏口義』に対する理解を深めることができた。ただし、当初予定していた葉県時代の黄庭堅に関する論文公表が遅延しており、次年度の継続課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
事業期間の最終年にあたる次年度は、黄庭堅詩訳注を完成させることに全力を傾注する。関連する作業として、銭鍾書『談芸録』第二条「黄山谷詩補註」の整理・公表もあわせて継続してゆく。また、黄庭堅の汝州葉県尉在任期の詩、および「元祐更化」の政治情況下における文芸活動に関して、数篇の論文にまとめる予定である。可能であれば、あらかじめ国際学会において口頭発表をおこないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は海外出張を当初の予定どおり実施することができなかった。次年度は最終年度であり、特に国際学会に参加する必要があるため、出張旅費や資料複写費を次年度にまわしたほうが有効であると判断した。
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