研究課題/領域番号 |
21K00339
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
市川 千恵子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (10372822)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | マーガレット・ハークネス / エセル・カーニー・ホールズワース / 女性労働 / オーストラリア |
研究実績の概要 |
令和4年度の主要な研究活動は、マーガレット・ハークネスの小説作品におけるイギリス社会主義運動表象の研究から派生したオーストラリアでの執筆活動の調査と、エセル・ホールズワースの詩と小説における労働者階級女性の政治的覚醒の様相の検証であった。ハークネスは1880年代の中葉からオーストラリアへ移住し、労働者階級移民の生活を追う執筆仕事を続けていた。とりわけ興味深いのが、Western Australian やSouthern Crossといった地元新聞に労働者の生活を描いた連載新聞小説や短編を寄稿し、オーストラリアの白人農業労働者の苦境を詳らかにしたことである。同時に、チャールズ・ディケンズを彷彿させるクリスマス・ストーリーも寄稿している。また、年末の12月の最後の週に渡英し、British Libraryにて土地所有制度と銀行制度の改革をめぐるハークネスのパンフレット(Imperial Credit, 1899)を閲覧する機会を得た。オーストラリアでの新聞記者兼作家としての執筆活動と、この政治的パンフレットでの提案は、ハークネスの最後の社会問題小説となったGeorge Eastmont: Wanderer (1905)の背景や主人公の成長の枠組みに大きく影響を与えていることが見出せた。次にホールズワースに関しては、初期の詩と小説を精読し、家父長制と資本主義への抗いの様相を検証した。今後の課題は、ホールズワースの後期の詩作と小説の読解から、19世紀末の女性の社会主義への傾倒が第二波フェミニズムへ接続する様相をさらに検証していくこととなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハークネス研究の成果は、The Research Society for Victorian Periodicalの年次大会(2022年9月15日オンライン)において、ハークネスがオーストラリアでの労働争議のあり様を、イギリスの失業を含む労働問題に対する解決策として検証していることを中心に報告を行った。ハークネスのオーストラリアにおける執筆活動と文学作品については、まだ国内外の研究者による検証がなされていないため、ハークネス研究に貢献しうるものと考えられる。また、ホールズワースに関しては、余暇としての読書習慣に付随する急進性をめぐって、国際学会Industrial Labour and Cultural Engagement in the Long Nineteenth-century (2022年8月18日)において研究発表を行った。北部イングランドの女性労働者の政治的覚醒を中心に検証した結果、This Slavery (1925) が描く二人の姉妹の選択には、エリザベス・ギャスケルやシャーロット・ブロンテの産業小説の根底にある“Tory Paternalism”を書き換える試みが見出せる。その急進性をさらに追究していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後(令和5年度)は、北部イングランドの女性作家の伝統と、女性の政治的覚醒ならびに政治参加の変遷の検証をさらに続ける予定である。特に、本研究課題の一部である19世紀中葉の労働者階級詩人Fanny Forresterの詩の研究を始めたい。また、ホールズワースの後期の詩の検証にも着手したい。同時に、ハークネスのロンドンを中心とする社会主義と急進性が、いかに北部イングランドの女性の政治活動と異なるのか、現時点では明確ではないため、さらに追求していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は8月の国際学会(イギリス・マンチェスター)のために渡英する予定であったが、コロナ禍が終息していなかったため、オンラインでの参加に切り替えてもらった。そのため、国際学会のための渡航費代が未使用となった。
|