研究課題/領域番号 |
21K00339
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
市川 千恵子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (10372822)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マーガレット・ハークネス / エセル・カーニー・ホールズワース / 女性労働 / 貧困 / 北部イングランド |
研究実績の概要 |
令和5年度の主要な研究活動は、マーガレット・ハークネス研究とエセル・ホールズワース研究の2つに絞られる。①ハークネスは様々な雑誌から依頼を受け、論説を執筆していた。とりわけ進歩的なThe British Weekly: A Journal of Social and Christian Progressに対しては、彼女が関与したロンドン港湾者ストライキやマンチェスターのスラムの状況をリポートし、活動の幅を広げ、かつジャーナリストとしての地位も確立していった。さらにはそれぞれの事例を小説として出版し、小説家として社会の貧困層の現状を中流階級読者に伝えることに貢献した。なお、The British Weeklyはハークネスにとり重要な新聞であるが、国内では所蔵図書館がないため、9月に渡英し、British Libraryにおいて閲覧した。その結果、先行研究では言及されていないハークネスの執筆記事を発見することができた。また、マンチェスターの取材後に、貧困地区Angel Meadowを舞台とする小説を出版するが、場の表象の様相に注目し、分析を続けた。この研究成果は、The Research Society for Victorian Periodicalの年次大会(2024年6月開催)において、報告を行う予定である。②ホールズワースに関しては、予定通りに後期の詩作品と小説の読解を行い、19世紀末の女性の社会主義への傾倒が第二波フェミニズム、とりわけ家父長制と資本主義に対する抵抗へと接続する様相を検証した。この成果を論文としてまとめ上げ、令和6年度中に国際学術雑誌への投稿を予定している。その他の労働者階級女性詩人についても検証する予定であったが、地元新聞への掲載後に、ホールズワースのように書籍の形によって出版されたケースが少ないため、テクスト探しに難航している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、ハークネスのジャーナリズムと小説を中心にイギリス国内の労働者とオーストラリアへの移民労働者について考察したが、特に群衆表象に注目した論文をまとめ、国際学術誌に掲載することができた。また、マンチェスターのスラムをめぐるハークネスの一連の仕事に関する検証の一部の成果を国際学会において発表する予定である。ホールズワース研究においては、自然、抵抗、家父長制といったキーワードを軸に、北部イングランドの女性作家からの影響を多く見出すことができ、さらに資本主義や階級制度への批判を検証したうえで、論文をまとめる予定である。なお、労働者階級女性の著述活動から派生したプロジェクトが、所属する国際学会(The Research Society for Victorian Periodicals)より2024年度の研究助成課題として採択された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度となるため、6月の研究発表と年度内の学術論文投稿の準備を進めつつ、過去三年間の研究成果の総括も行いたい。ハークネスの小説における女性労働の表象、ジャーナリストとしての活動における失業と貧困問題の実相の記述、ホールズワースの詩、小説、論説における社会主義への傾倒と絶望、資本主義への抵抗、そして、その他の労働者階級出身の女性作家(アマチュアも含めて)の経済的・身体的葛藤の声、さらに発表の媒体となりえた地元誌との連携についても考察をまとめていく予定である。ハークネスとホールズワースがいかにしてプラットフォームを持ちえない女性労働者の声に耳を傾け、その声をジャーナリズムと小説作品において読者に届けたか、その際の文体を検証したい。特に、個人的な葛藤の物語を集団の抵抗の物語と変容させうる女性たちの語りの様相を、自己・他者表象の観点から詳らかにし、北部イングランド女性著述の系譜を見出すことを最終目標としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
書店に注文していた洋書が在庫切れとなり、その再版が遅れ、年度内に入手できなかった。
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