本研究は、自律した個人に重きを置いていた合衆国において、とりわけアメリカの伝統的な自己のあり方が大きく揺らいだ20世紀前半のモダニズム期の文学作品群に注目し、「傷つきやすさ(vulnerability)」のモチーフが他者への「ケア(care)」という積極的な意味の物語を生み出しうることを浮き彫りにした。最終的に、F.スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・チャンドラー、ヘンリー・ミラー、J. D. サリンジャーという4人の作家の作品をこの視点から読み直すことで、独立した個人の理念からは克服すべきものとされてきた「傷つきやすさ」という主題からアメリカ文学を読み直す可能性を提示した。
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