研究課題/領域番号 |
21K00349
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
不破 有理 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (60156982)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | Sir Thomas Malory / 『アーサー王の死』 / 19世紀英国印刷・出版史 / English Studies / Matthew Arnold / Thomas Wright / Globe edition / Sir Edward Strachey |
研究実績の概要 |
日本英文学会94回全国大会において本研究テーマに近いシンポジアムを企画する機会に恵まれた。印刷・出版・読者の観点、およびパラテクスト的要素からMaloryのテクストの出版史550年を通観する企画で、申請者はMaloryのテクスト出版史上、空白の18世紀を経て出版された『アーサー王の死』のWilks版とWalker版の印刷競争の勝敗の要因をパラテクスト的要素(判型・印刷レイアウト・叢書など)から論じる。またMaloryのテクストが孕む社会・政治・宗教的要因による人為的改変と、中世の初期刊本が辿る散逸・破損によって直面する19世紀以降の編集者が担った編集作業を、1816年版、1817年版、1868年Globe版Sir Edward Strachey編を中心に論じ、20世紀のMalory学成立前夜のテクスト研究の実態に光を当てる。シンポジアムによって得られる知見を、本研究においてもさらに発展させることができるだろう。 初期英語文献協会から19世紀に『アーサー王の死』が出版されたなかった謎についてGlobe 版編者関係資料から明らかにした論文は2021年POETICAに掲載された。 またアーサー王伝承への関心の高まりを準備することになった別の動きがMatthew Arnoldによるケルト研究に関わるオックスフォード大学詩学講座における講義とその講義録On the Study of Celtic Literatureの刊行である。本作はケルティック・リバイバルにエルネスト・ルナンの著書と並び最も影響力のあった書として知られるが、当時のイングランドとケルト諸語地域との緊張関係を考慮に入れ再検討をすることで、アーノルドのケルト観が誤解されている点を指摘した。本研究は日本ケルト学会が現代のケルト学へ一石を投じる目的で刊行される『ケルト学の現在』におさめられ、2022年秋刊行予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初マロリーのテクストに特化してその出版事情を各テクストの編集者と出版社資料から調査を深める予定だったが、コロナ禍で現地調査も実質できない状況であったことと、アーサー王伝説の復興を準備する別のベクトル、ケルト文学やケルト学への関心の高まりから考察をすることによって、より複合的対立ち位置を確保できると考えたため、『マシュー・アーノルドの『ケルト文学研究について』の影響とケルト学成立前夜の調査に時間を費やした。結果として、論文としてまとめることに予想以上の労力を要し、マロリーのテクスト出版資料の収集分析に時間を割くことが難しかったため。また別の研究助成に伴う論文執筆依頼が複数重なり、本研究のための時間を存分に確保できなかっため。
|
今後の研究の推進方策 |
シンポジアムによって得られる知見を、本研究においてもさらに発展させることができる。1816年のウィルクス版とウォーカー版の編集者・印刷業者・出版業界に注目し、さらに念入りな調査を実施し、補完すべき事実関係が多々存在するので本研究において深く掘り下げたい。そのために書簡資料などの発掘、収集、分析を進め、1816年版出版に至るまでの印刷業者の足跡をたどり、19世紀最初期のアーサー王物語のテクストの出版背景を明らかにしたい。また当初の研究計画に沿って、テクストの出版史の調査と並行して、1816年版と1817年版刊行前夜にみられた書物収集熱や相次いで創設されたブッククラブ、とくにRoxburghe Clubや好古家協会の記録を調査し、自国の歴史・文学の復興機運の様相を探る。 国内外の調査も状況をみつつ、再開し、ロンドン印刷図書館、大英図書館など現地図書館の出版社アーカイブなど未刊行資料群を調査したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定、海外における資料収集と国際学会への参加を予定していたが、いずれもコロナ禍の状況で、学会は中止となり、渡航も困難であった。そのため、計上した旅費は現時点では未使用となった。研究年度2年目にあたる2022年度には、国内における調査旅行および海外のアーカイブ資料の現地調査に取りかかりたい。円安に振れており、旅費、滞在費が高騰しているため、繰り越した助成金を有効に活用できる見込みである。また19世紀のマロリーのテクスト・コレクションを所蔵することで知られるBarry Gaines教授の蔵書の支払いを別の助成金から充当したため、残高に影響した。
|