研究課題/領域番号 |
21K00353
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
中村 善雄 京都女子大学, 文学部, 准教授 (00361931)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヘンリー・ジェイムズ / タイプライター / 写真 / 自動書記 |
研究実績の概要 |
前年度に日本ナサニエル・ホーソーン協会関西支部にて開催されたシンポジウム「英米文学における″夫婦″のかたち―私的空間の男女」での発表を基に、本年度はそれを論文にするべく作業を進めた。19世紀後半のタイプライターの登場に伴う書字産業への女性の進出や創作行為における男性作家と女性タイピストの協同作業、タイピストの不可視化やその裏返しとしての可視化の欲望、タイプライターとオカルティズムについて検討を深めた。この考察対象としてヘンリー・ジェイムズと彼のタイピストたちを取り上げ、その研究成果を論文に仕立てて、2022年度中に共著本として成果発表する予定にしている。 その他、共著本2冊が上梓された。1冊目は2022年2月出版の『多次元のトピカー英米の言語と文化』所収の拙論「「ほんもの」にみるジェイムズの自己言及性とイラストレーションの変遷」である。タイプライター同様に19世紀に登場したメディア技術である写真がジェイムズと彼の作品に及ぼした影響を、短編「ほんもの」を題材に考察した。ロラン・バルトの写真論やジェイムズの執筆当時の挿絵を巡る状況を踏まえ、従来寓話として軽視されていた短編のオルタナティヴな解釈の可能性を追求した。3月出版の『現代アメリカ社会のレイシズム』では「ジューイッシュ・クランズマンの不可視性と人種的両義性」と題した拙論を発表した。研究発表では、欧米言語文化学会関西支部の「人種・民族」のフォーラムにて「『自由を求めた千マイルの逃走』と人種/階級/ジェンダーへの問い」と題した発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は本研究課題に関連する研究として、タイプライターと同時代のメディアである写真がジェイムズに与えた影響をバルトの写真論を踏まえながら、短編「ほんもの」を中心に考察し、それを共著として出版することが出来た。この論考はメディアが作家に与えた波及効果を検討する上で重要であり、タイプライターと作家との関係性を紐解く上でも、参照点となる。この成果を踏まえつつ、自筆から自動書記への変化に伴う作家の執筆スタイルの変化を考察し、タイプライターがジェイムズの創作面や心理面に与えた多面的影響に関する論文の準備を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はジェイムズと彼のタイピストに関する推敲を重ね、執筆を進めていった。今後は修正と校正を行い、2022年度内に共著本として成果発表することを当面の目標とする。次にジェイムズのみならず、彼と同時代の作家も視野に入れ、タイプライターを用いた執筆行為やこのメディアが各々の作家に及ぼした影響を比較検討していく。その研究を進めると共に、フリードリヒ・キトラーやマーシャル・マクルーハンのメディア論、エルキ・フータモを代表格とするメディア考古学に対する理解を深め、単なる作家論に留まることなく、広範なメディア論の観点から本研究課題に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染状況が好転せず、今年度の夏季休暇期間中に予定していたアメリカ(ボストン)での文献収集の計画が実行できなかったことと、国内学会もすべてZOOMによるオンライン形式で開催され、国内外の出張がなく、それに伴って旅費に割り当てられた予算が執行できなかったことが次年度使用額が生じた主因として挙げられる。次年度は対面での実施が予定されている学会もあり、その出張費に充当すると共に、前年同様、本研究課題遂行のための関連図書購入費として予算を執行していく予定にしている。
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