研究課題/領域番号 |
21K00354
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
板倉 厳一郎 関西大学, 文学部, 教授 (20340177)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英米文学 / イギリス小説 / 危機 / 情動 / 難民 / 9/11同時多発テロ / アフガニスタン |
研究実績の概要 |
2022年12月(奥付は2023年1月)に、Narratives of Trauma in South Asian Literatureがラウトリッジ社より出版された。この論文集に"Kaboul mon Hiroshima: Trauma and Narration in Atiq Rahimi's The Patience Stone"を寄稿している。アティク・ラヒーミーの『サンゲ・サブール──忍耐の石』を、一方で映画『二十四時間の情事』やキャシー・カルースによるその解釈の「書き直し」として、一方でアフガニスタンにおけるペルシャ語文学の伝統の継承者として読み直したものである。厳密に言えばイギリス文学ではないものの、現代南アジアのディアスポラ文学における痛みの表象の一端を解き明かした。 2023年1月に関西大学東西学術研究所紀要に"The Lawyer’s Scarf, the Banker’s Waning Testosterone: A Most Wanted Man and the Post-9/11 Politics of Emotion"を投稿し、条件付きで査読を通過した。これはジョン・ル・カレの『誰よりも狙われた男』における若いドイツ人女性弁護士と初老のスコットランド人銀行家の情動に焦点を当てたものである。一般的にスパイ小説に分類されがちだが、この作品では標題の「誰よりも狙われた男」であるチェチェン人難民を前に弁護士が覚える羞恥心や罪悪感、そして自分の娘に似たその弁護士に対して銀行家が抱く感情が中心的な地位を占めている。 また、2023年2月には、関西大学東西学術研究所で「ハンブルクでスカーフを巻く──ジョン・ル・カレ『誰よりも狙われた男』」と題した研究報告を行った。これは、上記の研究の知見を得ながら、都市表象、とりわけ白人女性弁護士がヘッドスカーフを巻く意味について概説したものである。 この他には、前年度に寄稿した論考("Virtual Terrorists, Virtual Anxiety: Affect and Technology in Kamila Shamsie's Home Fire")の校正などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度新型コロナ感染症の感染拡大等の影響で研究が大幅に遅れたうえに、2022年度は校務負担の大きな年度であったため、この遅れを挽回することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には現在投稿中・投稿準備中の論考を書き終える。2021年度中に海外雑誌で不採用にされた論文の再検討をおこなう。 そのうえで、9.11同時多発テロ事件の余波と現在の危機とを架橋する作品群を検討する。イアン・マキューアンやジョン・ル・カレの作品群には、「対テロ戦争」以降の文化的状況とイギリスのEU離脱を結ぶものがあるように思われ、その点を検討する予定である。 これが無事終われば、2023年度にもともと予定していた難民危機を使う文学を研究する予定である。現時点ではアリ・スミスの四季四部作と難民文学アンソロジーを論じる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は夏期休業前にパソコン等の物品を調達したものの、半導体不足などの状況で発注を見直したり、遅らせたりする必要が生じた。このため、年度の終わりになるまで予定額をどのくらい上回る、または下回るか予想ができず、執行に時間がかかった。これに加え、先述の理由で研究が進まなかった。
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