研究課題/領域番号 |
21K00354
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
板倉 厳一郎 関西大学, 文学部, 教授 (20340177)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 英米文学 / イギリス小説 / 危機 / 情動 / 9/11同時多発テロ / イスラム国 / 医療の政治化 / 難民 |
研究実績の概要 |
2023年7月に、Crisis and the Culture of Fear and Anxiety in Contemporary Europeがラウトリッジ社より出版された。この論文集には、板倉が寄稿した"Virtual Terrorists, Virtual Anxiety: Affect and Technology in Kamila Shamsie's Home Fire"が採録されている。これは、カーミラ・シャムシーの『ホーム・ファイヤー』が、親族のイスラム国参加という極端な状況を通して、オンラインコミュニケーションアプリとSNSによる情動の増幅という身近な危機を活写していると論じたものである。 また、同月、『関西大学東西学術研究所紀要』56号に論文"The Lawyer’s Scarf, the Banker’s Waning Testosterone: A Most Wanted Man and the Post-9/11 Politics of Emotion"が掲載された。 さらに、『関西大学東西学術研究所紀要』57号に"Plumbing Ethically: A New Pastorate in Ian McEwan’s Saturday"を寄稿し、審査後掲載が決定している。これは、イアン・マキューアンの『土曜日』を医療従事者の持つ「司牧権力」(フーコー)という視点から読み直したものである。本作品におけるイラク戦争をめぐる議論が古くなった現在、主人公のペロウンに対する違和感が彼の医師としての権力によるものだという解釈を提示した。 2024年2月には関西大学東西学術研究所例会で「ブレグジット以降の<田舎と都市>──アリ・スミスの四季四部作を読む 」を発表した。これは、アリ・スミスの四季四部作に彼女なりのディケンズの再解釈を見いだそうとしたものである。これを足がかりに、現在では四季四部作について二つの論考を準備中である。 なお、本研究とは直接関係ないが、書評や語学教材の作成を通じてイギリスの福祉国家政策とEU離脱をめぐる議論を見直すことができ、この研究課題に関わる新しい着想を得たことも付言しておく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
すでに報告済みの2021年度・2022年度の遅れを取り戻すには至らなかったため。なお、2021年度は新型コロナウイルス感染症の蔓延のため、2022年度は校務負担の大きな年度であったため、研究に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には現在進行中のアリ・スミスの四季四部作研究を行い、しかるべき場所で公表できるようにする。同時に、2021年度中に海外雑誌で不採用にされた論文の再検討をおこなう。 現代英文学における難民および難民政策の表象だけでなく、イザベラ・ハマッドの『亡霊登場』のようなパレスチナを舞台とした作品も検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度までの遅れを取り戻すには至らず、研究関連書籍の購入や文章校正費もおおむね単年度の使用範囲内に収まったため、残額が生じた。 2024年度は研究関連書籍の購入や文章校正に使用する予定であるが、可能であれば国内の研究会の開催も視野に入れたい。
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