研究課題/領域番号 |
21K00358
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
坂井 隆 福岡大学, 人文学部, 准教授 (90438317)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 『欲望という名の電車』日本初演 / 杉村春子 / 花柳章太郎 / 初代水谷八重子 / 新派 / ブロードウェイ・ミュージカルにおける振付とダンス |
研究実績の概要 |
日本の演劇界におけるTennessee Williamsの受容を調査する2022年度は、彼の代表作A Streetcar Named Desireの日本初演(1953年、文学座)に焦点を絞って調査し、その成果を日本英文学会九州支部大会(2022年10月22日)で発表した。発表題目は「「ブランチは女です。まず、女を舞台に出してください」ーーA Streetcar Named Desire日本初演における杉村春子のジェンダー・パフォーマンス」である。この口頭発表では、杉村春子が、新派の女方俳優花柳章太郎から「人工的で技巧的な女らしさ」を、新派女優初代水谷八重子からは「自然な女らしさ」の演技を学び、Streetcar日本初演においても杉村がその両者を応用してヒロイン(Blanche DuBois)を演じたことを明らかにした。この研究成果を英語論文("Shimpa, Onnagata, and Kata: Haruko Sugimura’s Gender Performance in the Japanese Premiere of A Streetcar Named Desire")として纏め、海外の査読誌The Tennessee Williams Annual Review (The Historic New Orleans Collection)に投稿した。論文は採用となり、2023年3月に出版された。日本におけるWilliams受容の事例を海外に発信、紹介できたという意味で、この成果は大きな意義をもつといえる。また、前年度に加わった新たな研究課題(ブロードウェイ・ミュージカルにおける「振付家とダンス」の役割)への取り組みも順調に進み、調査結果をまとめた、日本語原稿を編集担当者に2023年3月末に提出した。2023年度中にアメリカン・ミュージカルを扱った共著本として出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果を学会での口頭発表(招待発表)という形で公表し、それを英語論文として纏め、海外査読誌に投稿することができ、結果、採用された。よって、「おおむね順調に進展している」と評価した。研究業績の質という点から見れば、「当初の計画以上に進展している」と報告してもよいのだが、当初、予定していた海外での調査(ニューヨーク市内での劇場調査とNew York Public Libraryでのアーカイブ調査)が、校務との関係で、さらには世界的なパンデミックが原因で実施できなかったので、ひとつ下の評価で報告している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2023年度は、総括的研究(Williamsと日本演劇との関係を日本と英米演劇の交流史の中に再文脈化するための調査)に取り組む予定であったが、初年度と2022年度に実施した調査の過程で複数の新たな研究課題が明らかになった。具体的には、「Williamsの「能」の理解」「日本の前衛芸術集団「具体」の影響」「1950年代のハリウッド映画俳優による「日本人」擬態」「日本の不条理演劇の騎手別役実によるWilliams受容」である。より精緻な研究成果を出すためにはこれらの課題に取り組むことが必要である。そのため2023年度は、調査の目的と内容を一部変更し、総括の作業よりも上記の研究課題に力を注ぎたい。調査すべきトピックが増えたこと、コロナ感染症の影響で国外での調査がこれまで実施できなかったことを考えて、研究期間の延長も考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、当初予定していた海外での調査(ニューヨーク市内での劇場調査と、New York Public Libraryでのアーカイブ調査)が、校務との関係と、コロナ禍の影響で、実施できなかったことである。また、国内の主要な学会もオンラインに切り替わり、対面実施の場合でも比較的近場で開催されたために、交通費や宿泊費が必要でなくなったことも理由のひとつである。海外のコロナ感染状況を常に把握し、勤務先での校務スケジュールも調整して、次年度(2023年度)には海外調査を複数回実施し、2022年度の遅れを取り戻したいと考えている。その複数回の海外調査に翌年度分として請求した助成金と組み合わせて使用したい。ただし、海外調査が実施できない最悪のケースも想定し、その場合は、研究データの整理・管理や論文執筆に必要なノート型PCや、次年度の調査で必要になる高価な古書や一次資料の購入に充てる予定である。2023年度の研究調査の進捗状況によっては、研究期間の延長も考えている。
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