研究課題/領域番号 |
21K00362
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
園井 千音 大分大学, 理工学部, 教授 (70295286)
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研究分担者 |
平田 耕一 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (20274558)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イギリス文学 / ミルトン / 自由 / 共和主義思想 / コーラム |
研究実績の概要 |
2021年度はイギリス文学の道徳的主題と国民形成の関連において16世紀後半から18世紀前半までを中心に研究を進めた。研究代表者はジョン・ミルトンの政治的散文と共和主義思想との関連を中心に分析した。特にミルトンの自由に関する思想と宗教的思想との関連、また内戦時における国民の自由と権利の重要さに対する近代的認識について検証した。ミルトンの自由に対する概念は17世紀イギリスの政治的宗教的状況が複雑に影響し、彼自身の人間の基本的権利に関する思想が徐々に明確に形成されたことがわかった。特に長老派と独立派の宗教的違いは内戦の国家的危機における政治的権力闘争であることが明白に示された。この社会的コンテクストにおいてミルトンの自由の思想が共和政府樹立の過程とその後において変化したのか検証を続けている。ミルトンの共和主義的感性は1630年代から形成され始めたと仮定できる。このことについて彼の文学作品との関連を検証している。 また研究分担者及び研究協力者との検証において、以下の点について分析した。①16世紀後半のシェイクスピア史劇を中心に政治的宗教的なイギリスの特徴を文学的歴史的に検証している。イギリス王朝の形成と史劇の主題との関係、また史劇によるイギリスの歴史観構築と観客の受容との関連を考証している。②17世紀後半の科学的発展の特徴について自然科学の出版物の社会への流布とその特徴の検証により、イギリス社会における科学革命の実相と国民生活の関係を明確にする。科学活動を社会活動と連動させたイギリス国民の思想的特徴について分析し、産業革命萌芽期のイギリス国民思想の性質について明らかにする。さらに③18世紀半ばの貧困問題と社会改革の動きを児童養護施設設立との関係において検証した。トマス・コーラムの貧困児童の自由と権利の重要さの認識は18世紀ヨーロッパの啓蒙主義の動向と一致することを考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は16世紀後半から17世紀後半までのイギリス文学の道徳的主題と国民意識形成について検証した。具体的には①ホリンシェッドの『年代記』による歴史表彰とシェイクスピア史劇『ジョン王』、『リチャード3世』、『ヘンリー5世』を中心とするイギリス国民と国家の描かれ方の関連についてついて検証した。16世紀テューダー朝勃興期のイギリスの地政学的状況とヨーロッパとの関係、また演劇による国民意識形成への影響について劇の主題、使用言語、観客の様相について文学テキストの社会的歴史的コンテクストの分析により考察している。②また17世紀イギリス文学の状況においてはジョン・ミルトン文学、特に1640年代の政治的散文について1630年代から1650年代にかけてのイギリスの宗教改革と政治との関連の影響について検証した。同時にアンドルー・マーヴェル文学とイギリス内戦との関係においてマーヴェルの諷刺的表現に注目し、詩人の真実のメッセージは何か、複雑な政治的宗教的状況との影響関係、また自由の主張にみる国民性との関連を分析している。③17世紀後半イギリスの科学的書物の出版傾向と国民思想との関連を分析している。特にニュートンなどを輩出したイギリスの科学革命の実態は何か、実学との関係、科学的出版物と読者の知識の状況などを中心に検証している。④18世紀半ばの社会問題としての貧困の解決としてトマス・コーラムの児童養護施設設立の社会的政治的状況とコーラムの思想的特徴を検証した。コーラムの社会的弱者としての貧困児童救済活動は人間の自由と権利が中心的スローガンである18世紀イギリスの社会改革運動の先駆的行動であり、それはヨーロッパ啓蒙主義と同時代の思想的特性を持つことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は研究の総括と主に次の課題について検証を行う。ミルトンの共和主義感性の萌芽期と自由の思想の継続性についてThe Tenure of Kings and Magistrates (1649)などを中心に分析し、ミルトンの自由思想の特徴とその一貫した信念について検証する。またミルトンの共和主義思想の萌芽期は彼の人生の初期にあったという仮説を証明するために、Poems (1645) 編纂の過程と文学的主題の関連を分析する。さらに1660年王政復古後におけるミルトン文学の道徳的主題について宗教的政治的コンテクストに注目し検証し、ミルトンの自由と寛容の主張がイギリス国民意識の特徴を示すこと、またそれが18世紀イギリス文学の中心的主題に影響を与えたことを証明する。また研究分担者及び研究協力者は以下の課題について研究を進める。①17世紀後半から18世紀にかけての科学の発展とイギリス社会の状況に関してニュートン、ボイルなどの産業への影響とイギリスの経済的拡大の関連を分析する。②18世紀のイギリス社会改革運動とイギリス社会発展の暗部の問題、貧困問題、奴隷貿易廃止問題などとの関連を思想的社会的に分析する。 以上の研究をまとめ研究成果発表の準備を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナ感染予防のため、海外及び国内出張が困難であり、オンラインによる研究会が主だった。従って移動に係る費用及び出張研究により発生する物品購入等がなかったため、旅費、物品費、その他の費用は次年度に繰り越す。なお、研究はオンラインによる研究資料収集や研究会及び研究打ち合わせを円滑に行い研究計画の遅れはない。 2022年度は海外及び国内出張を予定する。また海外出張が困難となった場合は、国内研究機関における研究資料収集に努める。また研究打ち合わせはオンライン及び対面で行う予定であり、そのための旅費を必要とする。また17世紀から18世紀にかけての研究資料拡充のため図書資料購入を計画する。オンライン打ち合わせなどを円滑に行うため、PC及び関連機器購入を予定する。また研究打ち合わせ及び研究会のための会場賃料、研究資料印刷などのため「その他」費用が必要である。
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