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2022 年度 実施状況報告書

16世紀後半~18世紀イギリス文学における道徳的主題と国民意識形成との関連研究

研究課題

研究課題/領域番号 21K00362
研究機関大分大学

研究代表者

園井 千音  大分大学, 理工学部, 教授 (70295286)

研究分担者 平田 耕一  九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (20274558)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードイギリス文学 / ミルトン / 自由 / 国民意識 / 寛容 / コーラム / 奴隷貿易
研究実績の概要

2022年度は16世紀から18世紀イギリス文学の道徳的主題と国民形成の関連について思想的観点において分析した。
具体的には、研究代表者はジョン・ミルトンの政治的散文と共和主義思想との関連を分析した。ミルトンの暴君廃止論についてThe Tenure of Kings and Magistrates (1649) における主張が17世紀内戦時特有のものか、もしくは古典時代から形成された思想かについて歴史的思想的資料の分析により考証した。その結果、暴君廃止は国民の自由を維持するために必要という思想がヨーロッパ社会に伝統的に浸透しており、それが1640年代以降のイギリス社会の知識層において鋭く認識されたことが証明された。トマス・ホッブズの思想における国民の自由平等に利するコモンウェルス論調にも同様に示される。ホッブズとミルトンの思想的共通点として国民の基本的権利に対する近代的認識があったことは重要だ。次年度は研究最終年度であり、研究結果をまとめる。
また研究分担者及び研究協力者との検証において、以下の点を分析した。①16世紀後半シェイクスピア史劇を中心にイギリス国民意識の特質形成について検証した。特にテューダー朝における国民意識醸成を分析した。加えてステュアート朝との関連において史劇における国王2体論の考察をし、王権神授説と暴君廃止論の相克との関連を指摘した。②アンドルー・マーヴェルとミルトンの政治的思想の違いについてマーヴェルの1660年~1673年作品の分析を行った。②17世紀後半の科学関連出版物の特徴を考証した。出版物は学術分野及び実学関連が多く、イギリス社会における自由活発な科学活動が証明された。③18世紀半ばの貧困問題と救済の過程を人口、制度、思想において分析しトマス・コーラムの施設開設の動機の解明とホスピタル設営の社会的意味について考察した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2022年度は16世紀後半から18世紀までのイギリス文学の道徳的主題と国民意識成立の過程について検証した。具体的には①シェイクスピア史劇『リチャード2世』、『ヘンリー4世』、『ヘンリー6世』を中心とする国王と国家の描かれ方について検証した。君主制と国王の概念についてフランシス・ベイコンなどの法思想と国家意識との関連について分析し、劇の主題における宗教的政治的コンテクストについて考察した。また16世紀テューダー朝末期から17世紀ステュアート朝初期にかけての王権神授説醸成と暴君廃止論流布の社会的政治的意味と演劇主題に対する影響を分析した。このことは17世紀内戦時の共和主義的感性と連関性があることを証明した。②17世紀のジョン・ミルトンの国家意識と社会の関連についてホッブズとミルトンの自由の思想の共通点とコモンウェルス思想構築の過程についてミルトンの1640年代から1650年代にかけての政治的散文、詩、ホッブズの『市民論』及び『リヴァイアサン』などを中心に分析した。また17世紀イギリスにおける寛容の思想についてミルトンの宗教思想またアンドルー・マーヴェル文学について考察した。イギリス国民性の特徴として寛容の精神が明確になったのは17世紀以降であると仮定し、文学の主題と社会の関連について分析を継続中である。③17世紀から18世紀までの科学関連出版情勢とイギリス社会における知的活動との関連を分析した。④18世紀イギリス社会とロンドンファウンドリングホスピタル創設の過程を社会的思想的に分析した。都市部における貧困層と人口分布の関連、また貧困層救済制度の思想的コンテクストとイギリス国民の意識との関連について考察した。

今後の研究の推進方策

研究代表者は研究の総括と主に次の課題について検証を行う。16世紀後半から18世紀のイギリス社会における寛容精神と自由の思想が国民意識の特性として形成された過程についてまとめる。具体的には①16世紀後半から17世紀初頭にかけてのシェイクスピア史劇におけるイギリスの国としての体制とそこに住む人々の意識の描出が共同体としての形成過程に思想的に影響を与えたことについて分析しその結果について整理する。②17世紀内戦時から王政復古後までのイギリス社会と国民意識の特性形成における文学の道徳的主題の寄与について分析結果を整理する。特にイギリス国民意識の自由と寛容の思想がその基盤として明確になった過程について考察する。③16世紀後半から17世紀前半までのイギリス社会における科学思想の発展と国民意識形成の関連分析をまとめる。イギリス社会における知的活動の広がりと出版文化の特徴について整理する。④18世紀のイギリス社会改革運動とイギリス社会の貧困問題また奴隷貿易廃止問題などとの関連について社会改革過程におけるイギリスの人々の葛藤と自由思想の系譜を整理分析する。
以上の研究成果をまとめ論文、著書、研究発表等で公表する。

次年度使用額が生じた理由

2022年度はコロナ感染予防のため、海外及び国内出張が困難であり、オンラインによる研究会が主だったため、移動に係る費用及び出張研究により発生する物品購入等がなかったため、旅費、物品費、その他の費用は次年度に繰り越す。なお、研究はオンラインによる研究資料収集や研究会及び研究打ち合わせを円滑に行ったため研究計画の遅れはない。
2023年度は海外及び国内出張を予定する。また海外出張が困難となった場合は、国内研究機関における研究資料収集に努める。また研究打ち合わせはオンライン及び対面で行う予定であり、そのための旅費を必要とする。また17世紀から18世紀にかけての研究資料拡充のため図書資料購入を計画する。オンライン打ち合わせなどを円滑に行うため、スキャナー、PCソフト等の購入を予定する。また研究打ち合わせ及び研究会のための会場賃料、研究資料印刷などのため「その他」費用が必要である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] 「ジョン・ミルトンと共和主義思想の関係--『国王と為政者の在任権』(The Tenure of Kings and Magistrates, 1649)を中心に」2023

    • 著者名/発表者名
      園井 千音
    • 雑誌名

      大分大学理工学部『研究報告』

      巻: 70 ページ: -

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 「イギリスで “Science” が科学を意味するようになったのはいつなのか?」2023

    • 著者名/発表者名
      園井 千音、平田 耕一
    • 雑誌名

      大分大学理工学部『研究報告』

      巻: 70 ページ: -

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] トマス・ホッブズの思想と17世紀イギリス社会の関係2022

    • 著者名/発表者名
      園井 千音
    • 学会等名
      第19回西欧思想研究会
  • [学会発表] ミルトンの国家意識と17世紀イギリス社会2022

    • 著者名/発表者名
      園井 千音
    • 学会等名
      第20回西欧思想研究会
  • [学会発表] 18世紀後期~19世紀前半のイギリスにおける共和主義とミルトン再評価について2022

    • 著者名/発表者名
      園井 千音
    • 学会等名
      第21回西欧思想研究会

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公開日: 2023-12-25  

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