研究課題/領域番号 |
21K00365
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
小松 恭代 福井県立大学, 学術教養センター, 教授 (70710812)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヨシコ・ウチダ / 強制収容 / 日本の昔話 / 異文化理解 |
研究実績の概要 |
ヨシコ・ウチダは十代の頃日系であることを嫌悪し、強制収容も体験したが、生涯にわたって日本人や日系アメリカ人にかかわる作品を書き続けた。戦後間もない時期に日本の昔話を再話した『ぶんぶく茶釜と他の日本昔話』(1949年)を出版している。日系であることへの評価が否定から肯定に変わった契機やデビュー作への収容体験の影響を、自叙伝や、UCバークレー校のバンクロフト図書館所蔵のYoshiko Uchida Papersの資料から明らかにした。 ウチダは収容所で初めて多くの一世と接し、彼らが日本人としての誇りを失わずに強制収容を耐え抜く姿に感銘を受け、日系というエスニック・アイデンティティに誇りと自信を感じるようになった。収容所での体験から生じた日系に対する評価の変化が日本の昔話を集めた『茶釜』の出版の背景としてある。 この作品には強制収容のことは一切触れられていないが、前書きに昔話を通じた異文化理解の促進と多様性の尊重への希望が書かれており、ここに強制収容の影響がうかがえる。ウチダは当時ウェンデル・ウィルキーの「ひとつの世界」の創造という思想に賛同しており、この前書きにもこの言葉が使われている。強制収容を体験したウチダはどの国民にも平等な機会が与えられる民主的な社会の建設を望んでいた。昔話には他の人種/民族の文化に対する理解を促進し、多様性を尊重する力がある。子供の頃に両親から日本の昔話を読んでもらっていたウチダは昔話が持つ力を認識しており、民主的な社会の建設を望むウチダにとって『ぶんぶく茶釜』の出版は時宜を得た最良の方法であったことがわかった。 50、60年代のウチダの児童文学作品には、強制収容や人種差別の問題は描かれていない。「ひとつの世界」の理想が実現されたかのように日系人と白人が対等の立場で交流しており、現代の多文化主義を先取りしたような物語になっていることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目は新型コロナ感染症のために、UCバークレー校バンクロフト図書館にYoshiko Uchida Papersの資料調査に行くことができなかった。この研究課題はウチダ作品と日本との関わりを明らかにすることを目的としており、彼女の日記や未発表作品、エッセイ等の資料を読む必要がある。ウチダ作品と日本との関わりを知る手段がなく、計画通りに研究を進めることができなかった。そのためにこの研究に遅れが生じている。2年目の今年度はバンクロフト図書館で資料収集を行うことができたので、現在分析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
UCバークレー校バンクロフト図書館でYoshiko Uchida Papersの資料調査を継続し、ウチダ作品に反映されている日本とのかかわりを分析する。特に1950年代の2年間の日本滞在時の民藝作家とウチダの親交を調査する。美術関係の雑誌に記事を書いていたこともわかっており、それらの資料等から民芸運動がウチダに与えた影響を明らかにする。 1950年代から児童書を精力的に出版しているが、ウチダの子供たちへの異文化理解や多様性の尊重の願いがどのように作品に反映されているのかを日系アメリカ人の子供を主人公とした作品から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目にアメリカ合衆国のUCバークレー校の図書館に行く予定であったが、新型コロナ感染症のために行くことができず、研究計画を変更しなければならなくなった。 1年目に予定していた資料調査を今年度行った。2年目の資料調査の計画を3年目の今年度に実施する。
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